知られざる名著

 「BOOKMAN」は、30号をもって完結すると予告をして、そのとおりで終刊させた
のでした。最後の号がでたのは、91年6月のことでした。
最終号の特集は、「いい本とは何か」というものでありました。
巻頭には、「定番の名著はどこにある」という鼎談がおかれていますが、これには、
呉智英、矢口進也、小田嶋伸幸さんが参加しています。
司会を務める瀬戸川猛資さんの「肝心の名著について具体的にあげてみて」という問い
かけに対して、呉智英さんが、次のように発言しています。
「 意外に知らない名著というのはあるんですよね。例えば、高杉一郎の『極光のかげに』
という本があって、これは今度続編が岩波同時代ライブラリーからでた(「スターリン
体験」)ので、人にも勧めているのだけど、そもそも『極光のかげに』をみんな知らない。
これは、冨山房百科文庫っで出たのが十年ほど前。ぼくのまわりの友人で、この本の
ことを知っている人は誰もいない。」
 91年に呉さんの周囲に、「極光のかげに」のことを知っている人がほとんどいないと
いうのは、驚きでありますが、この本が、この時期に話題になっているには、当時の
ソビエト連邦の首相である「ゴルバチョフ」が来日したことも関係しているようです。
「 この四月にゴルバチョフが来日したでしょう。これはもう一年も前からわかって
わかっていることだからソ連関係の本がいっせいにでた。ゴルバチョフ・・という
まさにそのものの本、他に日ソ関係、シベリア捕虜問題、さかのぼって日露関係に
いたるまで」
 BOOKMANの最終号に、このように高杉一郎さんの本が名著としてとりあげられて
いるのは、記憶からとんでいました。
 ちなみに、これ以外で、「知られざる名著」としてあがっているのは、次のような
ものであります。
 「恋愛なんてやめておけ」   松田道雄
 「愛の試み愛の終わり」    福永武彦  
 「 日本の歴史をよみなおす」 網野善彦
 「 自分のなかに歴史をよむ」 阿部謹也

 網野善彦さんのものは、知られざるではありませんし、阿部謹也さんのものも
ずっとメジャーになっているでしょう。いまでは古典となっているものも、でた
ころには、そんなに話題になっていないということが読みとれるのでした。