草思社といえば3

 草思社といえば、小生にとっては岩田宏さんの著作でありまして、本日も
引き続きで、草思社からでた岩田宏さんの「同志たち、ごはんですよ」から
話題をいただきです。

「 およそ人間の抱くさまざまな絶望のなかで殊にも静かで恐ろしい絶望を
抱いている人たち、それがサラリーマンであります。その絶望は、経営者や
筋肉労働者の絶望ともちがって静かな絶望であり、まさに「白い絶望」と
いうにふさわしい。」

 この「白い絶望」という文章が発表されたのは、58年のことであります
からして、いまから半世紀もむかしのことであります。
 これに引き続いてのくだりには、次のようにあります。

「 私はかって社員の数が十四、五人という小さな出版社の編集部に勤めて
おりました。六ヶ月契約の嘱託として入社した私は、その六ヶ月をとうに
すぎても何らの通告も契約更新の扱いも受けず、やがて一年経ったころ、
社長と組合の両方にイビリだされてしましましたが、そんなこと以上に
なさけなかったのは、同僚たちの精神状態でありました。この出版社は
『左翼出版社』と呼ばれ、『勤労者むきにやさしく』書いた唯物弁証法
組合活動の本などを出しておりましたが、驚いたのは、民主主義や独立と
いう概念とはほど遠い空気が全社内にたちこめていたことです。
たとえば社長、この人はまだ三十代の若い男でしたが、非常な下士官的気質の
持ち主で、わざわざ忙しい時期をえらんで、全社員に召集をかけ、えんえん
小一時間にわたって訓示をたれる。その内容はいつも同じで、つまり、ウチの
ような中小出版社は取次店に完全に支配されており、その取り次ぎ屋は銀行に、
その銀行は元締めたる日銀に、それぞれ隷属している、だから要するに全社員
一致団結して懸命に働かなければとてもやっていけない、というものでした。」

 もちろん、岩田宏さんが働いていたのは「草思社」ではありません。
しかし、上のような文章を眼にしますと、この半世紀で人間はどれだけ賢く
なったのかと思ってしまいます。
 この会社の社長とくらべると、すくなくともきびきびしたはたらきものの
ウェイトレスの「同志たち、ごはんですよ」のほうが、信用がおけることで
あります。