平凡社の時代

 平凡社は、「世界大百科」をだしていただけあって、ずいぶんと多彩な
人材をかかえていました。嵐山光三郎の「口笛の歌が聞こえる」には、
変人たちがたくさん登場するのですが、このような変人たちが勤務することが
できたのも「百科事典」と創業者の下中さんがスケールが大きな人であった
からでしょう。
 「世界大百科」は、一家に一セットというくらいのいきおいで販売されて
いて、豪華な装幀から廉価版まで数種類のセットがありました。ちょっとした
家には、かならずといっていいほど百科事典はありましたですね。高度成長が
バブルに転じるまえには、ブリタニカとかアメリカーナなんてセットを販売
する商法もあったのです、いまでは古本やでも値段がつかないことになって
います。いまであれば、あこがれの百科事典もぞっき扱いで入手できるので
ありますが、残念ながら小生のところには置く場所がないのでありました。
 世界大百科は、林達夫さんが編集長をつとめていました。ながく林達夫さんは、
編集顧問などもやっていまして、「現代人の思想」というシリーズは、林さんの
流れを感じたことです。
 嵐山さんの本には、林達夫さんも含めていろいろな人物が登場するのですが、
この本がすぐにでてこないので、変人の生態を引用することができないのが
残念です。
 アナキズム石川三四郎についての著作を発表している大沢広道さんなども
そうした猛者編集者の一人でした。
 後年になって荒俣宏が、平凡社の一室にベッド(?)をいれて、ほとんど
住み込みのようなかたちで、図鑑の編集をしていたとあるのを見た記憶が
ありますが、荒俣さんのそうした逸話は、平凡社の伝統に忠実であるといえる
のかもしれません。