晶文社からでた「装丁術 好きな本のかたち」は86年の刊行で、その当時の
仕事場の写真と、仕事机にどのようなものが置かれているかのイラストがあります。
窓に面して机が二つおかれて、平野さんと助手さんがならんで仕事をしている
のですが、机の上には鉛筆とか、三角定規、灰皿がおかれ、室内にある機械と
いえば、アグファゲバルトディプロマスター(拡大縮小機)と現像機のみであり
ました。このような作業部屋から、この時代の作品は生まれたもので、ほとんど
職人さんの仕事場であります。
94年くらいに、作業場の様子はがらっとかわったようであります。
「 せっかくマックでいこうと決心したわけだから、これを機会にあらゆる道具や
手続きを、それからアシスタントまでも全部この中にいれちゃって、マックだけで
済ませたいと思っている。もともとあの描き文字にしたって、ロットリング一本
あればできるんだと。なけなしの道具でやるのが僕の流儀でもあるしね、・・
予想はしていたけれど、僕の仕事が完全にマックでやれることにびっくりした。」
マックをつかってデザインをするなかで、マックのための定番ソフトの考察となるの
でした。
「僕の基本は『カットアンドペースト』だから。いろんな要素を切って、貼って、
そこに色をつけてという、ロシア構成主義なんかのデザイン手法だよね。そういう
ベーシックなデザインの方法を上手く整理したところがソフトの基本じゃないかな。
つまり、歴史的に積み重ねてきたデザイン体験というものがベースになっていると
思うわけ。それは僕自身が学んできたことでもあるわけだ。」
( 「僕の描き文字」より)
もともと平野さんの制作手法が、マックの世界にのりやすかったということも
あるのでしょうが、このようにして94年以降は、ほとんど仕上げはマックで
やられているとありました。当然のことながら、作業スペースの中心にはマックが
おかれているのでしょう。助手さんも、このなかに取り込むといっていましたが、
それはどうであったのでしょう。
それにしても、マック導入前と後で、これだけ作風がかわらないというのは、
幸せなことであります。