好きな本のかたち

 平野甲賀さんの「装丁術 好きな本のかたち」がでてきましたので、
久しぶりに手にとってみました。これは、86年7月にでたものです
から、すでに刊行から20年が経過しています。ちょうど小野二郎さんの
著作集のデザインをかためていく過程をレポートするかたちで、平野
さんの装丁作法についてかたっています。
 この本の冒頭におかれた「ぼくの好きな本のかたち」の書き出しは、
以下のようになります。

「 好きなのは、たとえばズーアカンプの本。
  ズーアカンプというのは西ドイツのフランクフルトにある、ちょうど
 岩波書店と新潮社をあわせたみたいな大きな出版社で、ブレヒト
 ベンヤミンの本をたくさんだしている。
  そのズーアカンプが、日本でいえば新書判にあたるペーパーバックの
 廉価本シリーズをだしている。やわらかで、しなやか。そのくせ、表紙や
 背の綴じ方など、じつにシッカリしている。
 本というものの必要にして十分な条件をきちんと充たし、不必要なものは
 なにもついていない。そんな感じが好きなのだ。趣味が良くて、しかも
 あらっぽい。」
 
 晶文社初期にはドイツもので印象にのこるものがありましたが、編集は
ドイツ文学がお得意である長田弘さんですし、これに平野甲賀さんの装丁で
すから、晶文社のものを通じて知らず知らずのうちにズーアカンプの雰囲気に
つかっていたものであります。
 エンツエンスベルガーのものとか、ベンヤミン著作集は、ズーアカンプの
本でありますよね。
 そのむかし、学生のころに読むこともできないのに、ズーアカンプの本を
購入したことがありました。たしか、丸善かどこかでも入手できたのだと
思います。「ベルリンの幼年時代」であったのですが、赤とオレンジの中間色
くらいでしたが、表紙が文字だけでありまして、なんともすっきりとして
恰好がよかった。サイズも独特でありますが、いまでもズーアカンプの本と
いうのは、あのように恰好がいいのでしょうか。