松田道雄「育児の百科」

 岩波「図書」の広告をみて松田道雄「育児の百科」が文庫本になると
知りました。これって、けっこうインパクトのある企画だと思うのです。
昨日の小生のブログは、「育児の百科」について記憶だけで書いたので
ありますが、やはり、松田道雄さんの百科にあたって、読み物としての
「育児の百科」を紹介することにしましょう。
 もともとは、67年にでたものでありますから、いまから40年ほど
前です。(この百科の前には、「私は二歳」なんていう本をだしていまして、
これは映画などにもなったのでした。)小生のところにある本は、76年
11月とありますので、これはこどもがうまれたころに購入をしたもので
ありましょう。
 このまえがきで、松田さんは次のように書いているのです。

「一度に全部読むにはおよばない。月齢、年齢に応じて、毎月30〜40
ページほどよんでいけばよろしい。・・・
 何か異常なことがおこったら、その月、その年の『かわったこと』の
項目を目次でみてほしい。たいていそこでみつかるはずだ。母親が異常だと
思うことも、子どもの個性のあらわれにすぎないことがおおいからである。」

 とにかく、新米の親たちが子育てを負担に感じないようにするガイド
ブックをめざしているのが、この前書きからはうかがえます。
 これはあとがきでは、もっとはっきりと打ち出されています。

「 大家族がなくなって、夫と妻との意志でいとなまれる小家族になった。
 戦前にくらべて妻は自由になった。この自由は、しかし代償をはらわな
 ければならなかった。大家族のなかで、しゅうとめから嫁につたえられて
 風習としての育児を学ぶ機会を妻は失ってしまっている。はじめて母親と
 なった妻は、まったく未経験者として、子どもの成長にたちむかわねば
 ならぬことになった。これは日本の民族が、かって経験したことのない
 事態である。
  母親たちが、日本の近代化のなかで、育児に困惑しているのに、育児の 
 助言者たちは適当な助言をあたえたとはいいきれない。彼らも日本の
 近代化の波のなかに自らを見失おうとしている。」
  
  70年ころに松田道雄「育児の百科」を手にして子育てを行っていた
 団塊世代の孫たちが、現在、児童虐待のにあっていて、団塊世代の親の
 世代は介護難民と呼ばれるようになっているのです。
 これは日本の近代化過程のひずみの最大のものであります。松田道雄
さんの問題としことは、それだけ根っこが深くて、解決に時間がかかると
いうことでしょうか。