久しぶりの松田道雄さん

 先日に図書館廃棄本を見ていたら、松田道雄さんの本が残っていたもので

すからありがたくいただいてきました。そういえば、その昔(今から40年ほ

ど前のこと)には、松田さんの著作は良く読まれていたのだよなと、その

松田道雄の本 4 私の市民感覚」を手にして思いました。

 筑摩書房からでていた「松田道雄の本」は全16巻となっていました。

この「私の市民感覚」には、1977年に発表された「女性歌手の事件」という

文章があって、それは「さきごろ有名な女性歌手が、したしくしていた男性の

奥さんに刺されるいう事件があった。」と書き出されていて、「能力もあり、

仕事にも熱心な女性が、ひとかどの社会人として自立できるころになると、

年齢が三十歳をこえてしまっているという事態がおおくなっている。禁欲主義

者でもなく、独身を主義としているのでもないから結婚しようと思うだろう。

ところが相手がみつからぬ。」とつながっていきます。

 その結果として、魅力ある男性と恋におちたら、その相手には奥さんがいる

ということが往々にしてあるということで、それをなんとかしなくてはとなる

のですが、40年たっても、これへの決定的な策は見いだせていないようです。

 松田さんが書いている女性歌手とは、すこし前に亡くなった弘田三枝子さん

でありまして、弘田さんの事件に触発されて書かれた文章ですが、明治生まれ

の松田さんは、女性は結婚するものという前提になっているようにも読めて、

これはちょっと、今の時代にはあわないかなと思ったりです。

 そんなことを思っていたら、本日の新聞の「折々のことば」で鷲田清一さん

松田道雄さんの言葉をとりあげていました。

「あんたや君が知らないのは、恋愛におまけがつくということだ。」

松田さんの「恋愛なんかやめておけ」から引かれている言葉ですが、これへの

鷲田さんのコメントに「当然厄介なこともいろいろ絡んでくる。何かあった時

『けがが大きい』のはたいてい女の子のほうだ。『恋愛をほんとうに明るいも

のにしようと思ったら、性の不平等を、社会的平等で補強工作をしていくこと

だ』と。」とありました。

 松田さんのいう「性の不平等を、社会的平等で補強工作」というところは、

まったく問題なしと思うのですが、「女性歌手の事件」の終わりのほうには、

次のようにあって、このように書かれると異議もでるでありましょう。

「女性の『解放』ということが、もうひとつ親身でないのだ。職場での男女

差別をなくするというだけではたりない。彼女たちが独身で三十歳をこして

しまわないように、もっと早く結婚して家庭をもち、かつ働きたいものは働け

るような配慮がないことには、職場だけの差別の廃止は、彼女たちの婚期を

おくらせるだけのことになる。」

 今よみますと、あちこちの女性たちから礫が飛んできそうであります。

恋愛なんかやめておけ (朝日文庫)

恋愛なんかやめておけ (朝日文庫)

  • 作者:松田 道雄
  • 発売日: 1995/12/01
  • メディア: 文庫