全集の内容見本3

  個人全集で一番多くの版がでているのは何でありましょうか。
なんとなく、夏目漱石全集というのが、一番多くの版があるように思えますが、
どうでしょうか。岩波だけでも、一番有名な菊判のほか、新書版全集とか、
四六版全集など、あの印象的な装幀で、ずいぶんといろいろなものがある
ように思います。そのうえ、菊判などは、何回も復刊していますので、
ほとんど一家に一セット常備という感じの売り方でありました。
(このほかにも、集英社からちょっと違った編集方針の全集がありました。)
岩波は、菊判などは復刊のたびに、ちゃんとした内容見本を作成していました
ので、その都度、前回から追加された資料などは見本でも知ることができるので
ありました。版によって、どのような違いがあるかを知るために、内容見本と
いうのは、たいへん便利であります。
 本日にテーブルの上におかれているのは、筑摩書房の「渡辺一夫著作集」の
内容見本2種です。渡辺一夫さんの著作集が最初にでたのは、まだ健在であった
70年のことでありまして、この時は全12巻、初回の配本は「ラブレー雑考」で、
この価格は3200円となっています。
 これが死後(76年)にでた増補版著作集は全14巻で、基準定価は3800円と
なっています。70年から76年というのは、何度めかのオイルショックがあって、
この+600円というのは、あまりあがっていないという感じであるのかもしれ
ません。とはいっても、本体が3千円をこえているのは、きびしい値段であった
ように思います。初回も、増補版もどちらも揃えることができずに、今にいたって
います。(古本屋で端本を集めて、偶感集は揃えることができました。)
 この内容見本を比較していますと、増補版には「初版の月報は合本の上第十巻
別冊付録とした。」と「最終巻に追悼文集成を別冊として添える。」とあります。
この別冊だけでもお金をだしてもよいと思うようなものであります。
 増補版の見本には、渡辺一夫追悼文抄として、開高健清岡卓行清水徹
辻邦生中島健蔵中野好夫渡辺一民という面々が追悼文を記しているので
ありました。
 資料としては、増補版のカタログのほうが、ずっとよろしいのでありますが、
初回本のほうは、渡辺一夫さんのパリのイラストが表紙を飾っておりまして、
視覚的には、こちらのほうが断然よろしであります。