私の選んだ文庫2

 昨日に続いて、ハヤカワ文庫「私の選んだ文庫 ベスト3」からでありますすが、
本日とりあげる選者は柳田邦男さんでして、加賀乙彦さんの作品からのベスト3で
あります。
 柳田さんの書き出しは、次のようになります。
「 心の病に苦しんでいた息子が、自死する一年ほど前の二十四歳の夏に、私に
 聞いた。『加賀乙彦さんの作品を読みたいんだけど、一冊を選ぶとすれば、どれかな』
  彼は、同世代の若者たちが話題にするベストセラー小説には、まったく興味を
示さず、古典的な文学作品か、現代文学でも大江健三郎ガルシア・マルケスの世代 
以上の作家の作品しか読まない青年だった。自分で文庫本を探してくるのだが、その時は
めずらしく私に尋ねたのだ。
 『そりゃ宣告だろう。』
 わたしは、いつも死を考えている彼に、死の恐怖のなかに生きる死刑囚たちの生と死の
 問題を思索したこの作品を、あえてすすめた。しばらくしてかれが手にした帰ったのは
 文庫版の『宣告』と『フランドルの冬』だった。」 

 柳田邦男さんにとっての加賀乙彦さんの文庫というのは、むすこさんの自死の記憶に
 結びついているのでありました。昨日に引用した宇野千代さんについての評が、その
 作品世界などについて書いているとすれば、この柳田さんの文章は、息子の自死のこと
 へのこだわりだけでなりたっているといえるでしょう。

 小生はわりと加賀乙彦さんのものは手にしていますが、文庫であればなにをあげるで
しょうか。一冊目は「宣告」、二冊目は「帰らざる夏」そして「永遠の都」というところ
でありましょうか。