「怪僧」大庭みな子

 「醒めて見る夢」に収録されている藤枝静男さんについての文章の表題が
「怪僧」であります。この文章は、76年に藤枝静男著作集の月報のために
かかれたものですが、短い文章のどこを見ても、表題以外に「怪僧」という
ことばはでてきませんし、藤枝静男がなぜ「怪僧」であるかは、この文章を
読んで感じとるしかないようであります。

「 藤枝静男の魅力は、彼自身がそういう社会に生きてきたこと、生きて
いることをちゃんと知っていて、その彼自身を見つめることで、その
じがが、自然そのものの魂と一体になってしまったということなのだろう。
こうした作品世界は。あまり若いうちから文学の世界だけで生きて、普通の
意味で社会的な暮らしをしたことのない人では滅多に得られないものでは
ないかと思う。実のところ、わしらが、ごくごく若い頃、文学の世界から
一時遠ざかったのは、自分の世界がそのままでは実在する世界と無関係に、
狭い自己中心的なものになるような気がしたからである。
 そして、結局そうした生き方を選べずに、目的としてではなく、結果的に
文学に帰着した自分を、今となっては幸運だったと思っている。」

 大庭みな子さんが、晩年になってから、生前の藤枝静男さんのところに
いった話をかいていました。どこか文芸誌での話でしたが、一度図書館で
立ち見をしたことをのぞけば、見るにはいたってないのですが、あの
文章は、別な形で単行本となったのでありましょうか。著作年譜を見るに
いたってないので、すぐにこの作品のことを、このブログに書き込みでき
ないことが残念であります。