「続 洛中生息」杉本秀太郎

 「続 洛中生息」は79年にみすず書房から刊行されました。
 この本にも、京都の観光客のことについて書いているところがあります。

「たとえば、日曜祭日には、ごばんめすじの京都、つまり京のまちなかを歩く。
それというのも、洛外が雑踏をきわめているそういう日、これまた異常なくらいに。
近年の洛中は閑静をきわめているからだ。・・・たとえば四条烏丸から北にむかって
小路ひとつごと左に折れ、次いで右に折れして町中を歩けば、全くの無人、車も
まれにしか通らぬ結構さに、あなたは且つ驚き、且つはうれしくなるに違いない。
・・・そういう町すじの中には、能楽堂もある。日曜日に社中の催し物がある。
いかにも京美人らしい顔立ちの若い人が、そういう能楽堂から、突然、路上に
急ぎ足であらわれることがある。むろん、好みのいい和服である。・・・
 おなじ刻限に、祇園お茶屋の立ち並んでいるところでは、今どきめいた、
おそろしく背の高い、アスパラガスに色物をまといつけたような即製の舞妓を
撮影しようとして、うろうろしている観光客がおおぜいいる。お気の毒に、と
私はいつも思うが、あんなものを撮すのはやめときなされ、というほど差しで
がましいことをする気がない。」

 この文章から30年近くになって、アスパラガスに色物をというのは、ますます
なのでしょうが、洛中の小路についてはもずいぶんと人が入り込むようになって
あちこちとにぎやかになっていることで、町やがブームとなるなど、杉本先生には
住み難いことになっているのかもしれません。しかし、「文化財 杉本家」を
守っていこうとしたら、このような観光客の存在も粗末にはできないのかも
しれません。