トミノの地獄

怖い絵 (文春文庫)

怖い絵 (文春文庫)

 いぜんから久世光彦さんのことは、なにか思いついたことを書き留めておきたいと
思っておりました。久世さんの本を読むようになってから、10年もたっていないの
ですが、いろいろと印象にのこるものがありました。
 今回、久世さんのことを話題としようと思ったのは、四方田犬彦さんの「驢馬とスープ」
にある「トミノ、ふたたび」という文章を目にしたからです。

「 久世光彦がつい先ごろ急死した。虚血性心不全だったと、新聞では報道されている。
ベイルートの難民キャンプからかえってきて、わたしはそれを知らされた。そのとき
思ったのは、さあきたぞ、次は自分の番だという、覚悟とも諦念ともつかない気持ちである。
・・・・TV演出家とは多忙極まりない商売なのに、ずいぶん珍しい、大正時代の詩人の
作品までも読んでいる人だなあというのが、そのときの感想だった。
 とりわけ、彼が西条八十の『砂金』という処女詩集を評価し、古本屋でもめったに出ない
この本を何冊も蒐集しているという記述に興味をもった。ようするに彼はプロの詩人には
ついになれなかったものの、詩への憧れだけは生涯持ち続けていた人なのだ。
『砂金』はいわくつきの詩集である。というのも、そこに収録されている一篇の詩が原因と
なって、誰もがいつしか公に口にすることを憚るようになったからだ。
トミノの地獄』という13行の詩がそこには収められている。この詩を口ずさんだ人間
には、近い内にかならず死が到来するという噂が、いつからか飛び交うようになった。
わたしはそれを寺山修司の文章で最初に知った。彼はその後しばらくして、46歳で急死した。」
 
 寺山、久世と「トミノの地獄」を偏愛する人が、ともに急死して、次は四方田が自分の
番であると覚悟をしていると書いているのです。

「 読者よ、もし近いうちにわたしの身に何かがおこったとしたら、それはあの一篇の詩の
せいだと推測していただきたい。けだし、言葉というのは太古の昔から呪いであった。」

  久世さんの「トミノの地獄」を引用した文章は、「怖い絵」文春文庫にはいっています。
最近は同名でちがった本がありまして、検索するとそちらのほうがヒットするかもしれ
ませんが、久世さんの「怖い絵」は高島野十郎のろうそくの絵が表紙にあるもので、
おすすめです。
( この連休は、友人たちと遊びほうけておりますので、あしたの更新はお休みとなります
でしょう。)