民族の本音 3

 丸谷才一さんの「民族の本音」という小文に名前があがっている谷崎潤一郎の小説
「金色の死」についてです。
 当方の関心は、どうして谷崎は生前にこの作品を全集に収録しなかったのだろうか
というところにあります。このことについて、誰かがどこかで書いているのではない
かと、検索をかけてみたのですが、そういうことであったのかと納得のいくような
ものはありませんでした。
 まあ作者本人が、この作品の出来に満足できなかったからとしか思えません。
谷崎については、いろんな研究がなされているのですから、これの背景についてどこ
かにあってもよろしいと思うのですが。
 いかにも、「金色の死」について書いていそうなのは、久世光彦さんでありまして、
この方には「美の死」なんて本もあるのですから、「金色の死」を評価していた三島
由起夫をとっかかりにして、谷崎の作品を串刺しにしていても不思議ではないぞと
思い、ちくま文庫「美の死」を手にしてみました。

美の死―ぼくの感傷的読書 (ちくま文庫)

美の死―ぼくの感傷的読書 (ちくま文庫)

 表題ともなった「美と死」という文章は、三島由起夫がとりあげられていて、そこ
では「三島由紀夫が、いかにも幼時からの夢を具現したかのようなふりをして建てた
家や装飾、調度品」にふれたところがあるのですが、ここでは谷崎「金色の死」の話
題とはなりません。
 久世さんは、「一九三四年冬━乱歩」の本文で『さかしま』を高く評価している部分
があり、『さかしま』と比べると谷崎潤一郎の「金色の死」もかなわない」と記してい
るのだそうです。
 久世さんのものを、もうすこしチェックの必要がありそうですが、久世さんはあまり
谷崎作品のことを話題にしていないようでありまして、なかなか手懸かりがつかめない
ことです。