「エスペラント」3田中克彦

「私たちは何か外国語を学んでみようと思いたつとき、どんなふうにかはっきりとは
いえないが、その外国語が帯びているイメージにひかれている。ではそのイメージは、
いったい何によってつくられるのだろうか。ことば、そのものというよりは、その
ことばが話されている国、そのことばで登場するファッションだのによるところが
大きい。・・・そのことを思いあわせてみると、エスペラントには国もなければ
ファッションもない、ましてやエスペラント女優さんもいない。そうすると私たちは、
エスペラントのイメージを何によって作るのだろうか。
 おそらくエスペラントを学んだり、話したりする人からではないだろうか。
たぶん、あの人がエスペラントをやっているらしいと聞けば、その人が代表して
エスペラントのイメージをつくる。そうなると、エスペラントを学ぶ人は、どこか
魅力ある人であってほしいし、また学ぶことによってそうなってほしい。」

 本日の引用は、田中克彦エスペラント」のあとがきからです。エスペラント
国とか風土とか歴史との結びつきが薄いこともありますから、そうしたことへの
関心から、この言葉をやってみようという人が現れることはないでしょうね。
人間がつくりだした言語である「エスペラント」は、ことばの使い手である人間に
魅力がなくては、言葉は広がりをもたないのでありました。