「古い手紙より」

 本日の表題は、長谷川四郎さんの「知恵の悲しみ」という作品集に収録されて
いる小品「古い手紙より」によっています。
「私が、シベリアから帰還してみると義弟はすでに南方で戦病死していた。」
その彼と恋人との間にかわされた一束の古手紙を紹介する書簡を中心にすえた
作品です。
「私が、これらの手紙を抜粋し、少し書き直して、整理し、ここに発表することを、
静かなる故人は同じく故人である佐竹君のために許してくださることを信ずる。
文学の領域はひろい。あらゆる人々は書きのこすべき何らかのメモワールを持って
いるし、どの手紙もそれ自身文学であり、ことに愛の手紙においてそうであると
思う。」
1月14日のブログ初回に、創樹社からでていた「わがヴァリエテシリーズ」の
「知恵の悲しみ」について記しましたが、それから5ヶ月もたって、やっと
すこし中身の紹介ができるようになりました。エッセイがあって、小説があって、
評論のような文章もあるという、バラエティブックでありますが、「まるごと
長谷川四郎」という一冊で、入門書としてはたいへんすぐれていると思うのです。
長谷川四郎さんは、大学にいたころは詩を書いていたとのことで、その時代に
ことを知る人には、ずいぶんと浪漫派のような感性の人とおもわれていた
ようです。
 この「古い手紙より」は女性から佐竹さんという男性におくられた書簡集の
ような組立になっているのですが、戦時中に30代半ばくらいに女子教師に
設定していますが、抑制された文体で、書簡体形式の小説が好みの小生は
おおいに喜んだのであります。
 さて、先日に小生のところにも、「月の輪書林古書目録15号」が届きま
したが、「三田平凡寺」を特集とした、この号には、平凡寺と同年うまれで
ある「リルケ」つながりで、リルケの翻訳者でもある「長谷川四郎さん」が
登場するのでした。
 今回のリストで目についたのは、長谷川四郎さんの「訳詩草稿」と
昭和27、35年の奥様あての自筆書簡でありました。これらの資料の
合計では100万円ほどの価格になるのでした。
この「古書目録」には、たくさんのはがきの文面を紹介するところも
あるのですが、このように紹介されているのを見ますと、どうして四郎さんから
おくさんへの書簡が古書店にでるのか不思議に感じるとともに、なんとなく
残念な気持ちになるのでした。