「読書の醍醐味」笹山隆

 「古来牛酪を醍醐と称したとのことだから、古の賢人たちも、書物の味わいを
チーズに託して云々することに、異存を唱えなかったにちがいない。」という
くだりがあるのは、「読書の醍醐味」という笹山隆さんのエッセイです。
笹山さんは知名度は高くはないようですが、英文学者で専門は古い時代の演劇で
あるようで、その関係の研究書や翻訳があります。数年前にほとんど自費出版
れた「甲山日記抄」(冬扇社刊)というエッセイ集が、毎日新聞の読書欄でとり
あげられたことで、このような方がいることをしりました。新聞にでていた
販売元の依頼して、入手することができたのですが、これはとっても渋くて
うらんかなのものとは対極にある出版物です。
 このエッセイでは、自分の好んで読むエッセイをチーズの味わいになぞらえるの
でありますが、須賀敦子さんの文章は、「ブリア・サヴァラン」に通じるものが
あるというのをはじめとして、20世紀を代表する美術史家ゴンブリッチの著作は
「ノルマンディの王者、ポンレビック」といっています。
もちろん、小生は、このチーズへのたとえがどのくらい正鵠をえているのか、
判断もできないのでありますが、チーズの熟成について能書きを書いたのち、本に
ついても同じだと次のように書いています。
「研究書の場合など、一寸見のおもしろさでとびつくと、必ずあとで後悔するもので、
できればその著書が本物かどうかを確かめた上にしたいものである。少し前、
ある学会のパーティでであった名うての反植民地主義的文化批評の実践家が
たまたま話題にのぼった甘粕大尉の名前すら知らなくて、あきれたことがあるが、
こうした手合いの書き物こそ、一口噛んだだけだとうまそうに思えるが、
熟成どころか、中はぶよぶよで、あとは吐き気をもよおすは必定である。」
 そういえば、この笹山さんは、古いお芝居の翻訳を岩波文庫にのせています。
コングリーブとかいう劇作家のものですが、このような作品は、笹山さんは、
どのようなチーズにたとえるのでありましょうか。