行きつけの店(山口瞳さん)

 山口瞳さんの作品には、ほとんど親しんではいないのでありますがサラリーマン作家
として「江分利満氏」でデビューした当時のことは覚えております。そのころのサンアド
は、開高健柳原良平、そして山口瞳をかかえて、たいへんな勢いでありました。
(トリスを飲んでハワイへ行こうの時代です。)
 山口さんの違った一面を知ったのは、林達夫著作集の月報に文章を見たことによりま
す。その文章では、林達夫には鎌倉アカデミアで教えを受けて、「洋酒天国」に林達夫
文章をもらおうと、非売品のウィスキーをさげて、鵠沼の自宅にお願いにいったことが
書かれていました。ウィスキーのお礼はいわれたが、結局は原稿をいただくことができ
なかったともありました。
 たしか、山口さんの父親は、息子からするとやっかいな人であったようですが、鎌倉
アカデミアの存続にむけての金策で動くはずでありますが、これはいらぬお節介であった
のかもしれません。
「血族」という作品では、自らの出自についてをテーマに書いていますが、このような
ものは小生の好みではありません。(ちょっと力が入りすぎているのがいやなので
しょう。)
 山口さんの作品で好みなのは、「草競馬流浪記」というものでありまして、地方競馬
の開催地を訪れて、その地での競馬とそのあと過ごした時間についてかかれていますが、
どんなに力をいれても、先細りの感のある地方競馬ドキュメントです。( 笠松
スターとして騎手 安藤克己さんが登場しますが、いまは中央競馬の押しもおされも
しないスター騎手になっています。)
 山口さんは、この旅行記で、その土地のおいしいものをさがしてはいただくのですが、
好みがきびしいだけに、あまりはずれはなさそうです。もっとも地方の高級料亭なども
行きつけの店としてあがっていますので、これは簡単にはなじみになることはできま
せん。
 そのまちでひっそりとやっている和菓子屋さんなどは、いってみようと思いますが、
もともとひっそりとやっているのですから、まるで商売っけがなくて、なかなか店が
開いているときにはいくことができないし、せっかくあいていてもほとんど商品が残って
いなかったりするのでした。
 今回の野暮用旅行では、京都から金沢へといっていたのですが、金沢ではひょんな
ことから、山口瞳「行きつけの店」でとりあげられている「つる幸」に案内される
ことになりました。
とっても敷居が高くて、自分から進んでいくことはないと思われますが、先達があります
と、そのあとをついていけばよろしです。
 「行きつけの店」はTBSブリタニカからでた本ですが、小生はブックオフで105円
で購入をしました。この本に「つる幸」のカウンターで山口瞳さんの写真がありました。
昨日に店にはいりましたら、まったくこの写真とは雰囲気が違いますので、はてと思い
ききましたら、店の前の道路改修にともなって、すこしセットバックしたので、そのとき
にカウンターをなくしたのだそうです。
 いまでも、山口瞳さんのファンが、この本で絶賛の「鰯のつみれ汁」を求めて、来店
するといっていましたが、あらかじめ予約いただければ、山口さんの色紙などもかけて
おくのだそうです。
 この店で40年も働いて定年をむかえて、いまは忙しいときにお手伝いにきていると
いう女性は、むかしからのおなじみのお客のことをよく心得ているようでありました。
このような古くからの人が働いている店は、いかにも山口瞳好みであると感じました。
 その女性は能登の穴水の出身だといっていましたが、昨日にはじめて聞いたその地名
は、本日の地震では震度6強といわれていました。そこには、いまでもいとこをはじめ
親戚がすんでいると聞いておりましたので、にわかに被災にあった方々を心配するので
ありました。