69年1月1日の朝日新聞には「人間回復のために・・10冊の本」と
いうリストがありました。リストを作成したのは、久野収さんでありまして、
このリストからは、時代の雰囲気を感じることができます。
人間らしく生きるとかいうのは、最近のほうが大きくとりあげられても
よろしいのに、こういう課題への取り組みが、なんとも半端であるよう
です。 どうして、このようなことになっているのでしょうか。
久野さんとかの世代には、戦争をくい止めることができなかったという
無念さがあって、戦争とならないように動くことを、生きるための規範と
しているようなところがあったと思いますが、最近の知的エリートには、
そのような無念な思いは、はなからないようです。
今の時代に「人間回復について」という題で、リストをつくりますと
どのようなものがはいるのでしょうか。
ちなみに、68年時点で久野さんが選んだのは、次の10点。
・ 根をもつこと シモーヌ・ヴェイユ 春秋社
・ 政治と犯罪 エンツエンスベルガー 晶文社
・ 幻視のなかの政治 埴谷雄高 未来社
・ 都市の論理 羽仁五郎 けい草書房
・ 安全性の考え方 武谷三男 岩波新書
・ 純粋寛容批判 マルクーゼ せりか書房
・ 人間 ある個人的考察 小田実 筑摩書房
・ 転換期の美学的課題 中井正一 美術出版社
・ 新しい産業国家 ガルブレイス 河出書房
・ 二等兵シュベイク ハーシェク 三一書房
つくづくと時代を感じることですが、これを新刊で購入しようとしたら、
何冊が可能でしょうか。時代をこえているものもありますし、あんなに
売れたのに、いまではまったく話題にならない本もあるのです。
あの時代の羽仁五郎という存在を、どのように表現すると、いまの
若い人にわかってもらえるでしょう。
最近の若い人向けに、このような大まじめなリストを作成することは
可能でしょうか。