ちょうど学生のころに「林達夫著作集」が平凡社よりでました。
こちらは、ほとんど情報をもっていなかったのですが、著作集の
宣伝パンフを手にして、これはどういうひとだろうかと思って
購入することにしたのです。なかなか見つけることができなくて、
何軒かの本屋をまわって、やっと見つけたことを思い出します。
このときの出会いというのが、その後の小生に生き方の大きな
影響を与えたといわざるを得ないのでした。
最近は、平凡社ライブラリーからコンパクトになって入手でき
ますが、林達夫さんは、明治29年生まれですから、小生の父方の
祖母と2歳違い(祖母のほうが年長で、祖母は宮沢賢治と同年です。)
祖父母のような年齢の人の本を読んで影響を受けるというのは、
なかなか感慨深いものがあります。
最近は、68年や69年というのが時代の転換点であったという
ような著述を多く眼にしますが、やはりそうなのでしょう。
69年の朝日新聞 今年の回顧ベスト5には次のような論文が
ならんでいます。
(選者は中村雄二郎)
・山口昌男 「文化と狂気」
・広松渉「世界の共同主観的存在構造」
・高島善哉 「 民族と階級」
・林達夫 「精神史」
・山崎正和「変身の美学」
ちなみに「精神史」の評には次のようにありです。
「林氏の文章は、文字とおり哲学講座の末尾を飾った密度高い
思想的作品で、ルネサンス、バロック時代の芸術を素材に
現実的なものと想像的なものとディアレクティクと精神の考古学を
目指すという、世界的にも最先端の若々しい問題意識にみちている。」
上の記事をスクラップにしたときには、その数年後に著作集を購入
することになるとは思ってもいなかった。あとになってから、この
切り抜きをみて、あのひとがこの時のと思ったのでした。
この林達夫さんの著作に関しては、中公文庫にはいっている
「共産主義的人間」の解説で、当時はベストセラー作家であった
庄司薫が「人生という兵学校を生き抜くための貴重な虎の巻」で
あるといっています。これについては、さすがに庄司薫さんは、
わかっていらっしゃるという感じです。(庄司の作品には、
林達夫をモデルにしたと思える人物が登場しますが。)
幸運な話というのは、この林達夫さんの謦咳に接することができた
ことでありまして、73年くらいでしょうか。岩波講演会で京都に
きたときでありますが、関西にきたのはずいぶんとひさしぶりと
いって話がはじまったのですが、この講演は、そのあとに岩波の
カセットブックになって販売され、貴重な小生のコレクションとなって
いるのです。
直接に教えを受けた人以外に、林達夫さんの顔をみたひとは、そう
多くないはずでありまして、これは相当に幸運なことであるのでした。