岩波文庫80周年

 現在流通している文庫のほとんどは、小生がものごごろ
ついてから創刊されたものですが、岩波、新潮、角川の各文庫は
その前からでていて、創刊当時のことは歴史でしか知りません。
自宅には、けっこう古い文庫本がありましたので、岩波文庫
ものでは古い「範をレクラム文庫にとり」といわれた版型のものは
父の書架でみかけておりました。こどもながらに、あの装幀と
版は趣味が良いと思っておりました。岩波文庫のふちどりの絵は
たしか平福百穂ですが、この名前はアララギ派歌人として
聞いたことがありました。
 今回、80周年記念として創刊のセットというのが記念出版と
してでましたが、状態の良いむかしの岩波文庫は、今見ても手に
おさまりがよくてとってもよろしです。
あのサイズと比べると、最近のは寸足らずでして、印象がスマートで
ありませんね。

 サイズはともかく、最近の岩波文庫は版を改めた復刊のような
ものが新刊としてならんでもおりますが、ビューヒナー
「ダントンの死」などもはいって、これには驚いたことであります。
今から40年ほどまえに河出書房から、全集がでて、その宣伝パンフを
いまでももっておりますが、これをみて一番驚いたのは俳優の
小沢昭一さんが推薦文をのせていたことでした。 これは岩淵達治訳の
芝居にでたことによりますが、そのときに、小沢昭一さんは、この
ようなところに文章を寄せる資格があるのだと知ったことです。
 このビューヒナーの作品をおさめた文庫本は、岩淵達治の解説と
あいまって、今後品切れとなったら古書としての値上がり必至と
いっておきましょう。

 1月の岩波文庫新刊で、購入したのは木下杢太郎の「百花譜百選」
のみでありますが、小生には「百花譜」も「百選」も縁がありません
でしたので、これでやっと自分のものとすることができました。
まさに「芸術は万人に愛されることを自ら望む」であります。