いまでも夢にみる古本

 本を集め始めたのは、高校の終わり頃ですから、いまから
40年近くも昔のことになります。
学生の時には、古本屋歩きの楽しみを覚えて、安いものでは
ありますが古書収集を始めたであります。
 この時代に買い逃して、いまでも残念と思うのは、塔晶夫版の
「虚無への供物」でありました。
ちょうど大学浪人していたときに、三一書房判の「中井英夫
作品集」がでまして、朝日新聞の読書欄で、深夜叢書社
斉藤慎爾さんが、この作品のことを傑作とほめていたので、
浪人の身であるにもかかわらず、刊行まもなくの作品集を
購入し「虚無への供物」に、はまったのでありました。
 そんなわけで、これの元版のことを知ることになったので
すが、当時でもけっこう珍しいものであったのでしょう。
京都の元田中界隈を歩いていたとき、京福電車元田中駅近くに
あった古本屋に、この元版がありました。カバーがなかった
のではないかと思いますが、値段は2900円くらいでは
なかったか。三一版作品集が1800円ですから、これは
貧乏学生には、月の生活費の1割ともいうような金額で
とっても買うことができませんでした。
 昔は、いまと違ってネット検索なんてありませんでした
から、古本屋を歩くか、目録入手して探すしかありません
でしたので、いまよりも目指す本を確保するにはずっと
時間がかかりました。
 日本の古本屋で検索をかけましたら、この元版が
ずいぶんな値段でならんでいますが、このような形での
愛着ある本とのであいというのは、ちょっと味気ないか。
 こちらは、自分が設定した値段よりも高価なときは、
買わないというのをモットーにしているせいもあって、
その後、塔晶夫版の「虚無への供物」には遭遇することが
ありません。さて、この元版とは、縁がなくて終わるので
しょうか。