完結しない全集など

 全集物やシリーズで、刊行が始まって、当初は順調であったものが、あるときから
でなくなって、いつの間にか、完結の見通しがたたなくなるものがあります。
 新資料がでてきたので、それを調査、整理しているので遅れていますとアナウンスが
あるものは、まだよしとして、解説があがらないからとか、著者のあとがきができない
からというのは論外ですし、理由もなくとまってしまうものには、どうなっているのか
と怒ってしまいます。

 平凡社からの加藤周一著作集は、もう数年間も残り1冊が未刊行状態となっています。
これを完結させるというのは、著者としての義務ではないでしょうか。
( これは2010年9月に刊行されて完結しました。)
 そのむかしに、美術出版社からでた中井正一全集も、早々に2冊が出てから、つま
づいて完結するまでに30年近くもかかったはずです。( 最初に、この全集の担当
であったのは、この会社にいた詩人の長田弘さんでありましたが、完結したのは、
彼が退社してからのことでした。これは久野収さんの解説があがらなかったからと
聞いたことがありました。)

 未来社からでていた武井昭夫著作集、途中でとまって、すでに30年となっています。
今では、これなど誰も完結するとは思っていないでしょう。これがとまることになった
原因は、最後におかれる著者自注ができないことでしょうが、最終刊となっている
77年6月の自注には、次のようにありです。
「 最後に、本巻の発行が予定より一年余もおくれたことについて、読者、書店、
出版社の関係するみなさんにお詫びし、ご寛容を乞います。
 第2巻の自注を書いたあと、からだの具合がわるくなり、いろいろな検査の上、
結局75年夏には入院手術という事情もありましたが、それにしても年末までには
なんとかできたはずで、これはやはり例の怠けぐせが作用していたように思います。
幸い体力も回復してきましたし、次回は心を改めて、と考えています。」
 これから30年が経過しました。企画をした編集者も、これでは、たまりませんよ
ね。

 文庫本の全集ではありましたが、東京創元社から刊行されていた中井英夫全集が、
スタートしてから12年目かでやっとこさ完結しました。三一書房の全集よりも安く
て、しかも内容充実ですから、これは待つに値すると思っていました。中井英夫から
女性歌人へあてられた書簡を収録するなど、手間ひまがかかっていました。
それだけに、最後は一年に一冊もでないことがあったに
せよ、編集者と出版社の労をねぎらいたいと思います。

 ずさんでも困るし、こだわりすぎでいつまでたってもでないということでも困って
しまうのが、資料としても活用される全集というものでしょうか。