残り少なくなり

 いつから借り続けているのだろうかと思って、図書館の返却のお知らせを

綴ってある手帖で確認をしましたら、最初に借りたのは5月26日というこ

とがわかりました。それからほぼ二週間ごとに、借りる手続きをして、4ヶ月

目に入っています。どなたも、これを読みたいとリクエストする人もいない

こともあって、自分の本でもあるような気分で読むことができています。

この本など、自分で買っていても不思議ではないのですが、自分で買ってい

たら、読まずに終わったかもしれません。

 そういう意味では、本当に図書館というのは、単に本を無料で貸してくれる

だけでなく、ちゃんと読まんかいと背中を押してくれるというありがたいとこ

ろであります。

 ということで、ずっと借りているのは金石範さんの「海の底から」でありま

す。

海の底から

海の底から

  • 作者:石範, 金
  • 発売日: 2020/02/21
  • メディア: 単行本
 

 拙ブログで何度か話題にしているように、この本は金石範さん畢生の大作

「火山島」の続々編といわれていますが、続編といわれる「地底の太陽」が

そんなに長いものではなかったので、やはりこれでは終わることができな

かったのでしょう。(「地底の太陽」は、当方のアンテナにかかりませんで

したので、これが続編とは思いませんでした。これから借りて読むことに

するつもりです。)

 「海の底から」は読んでいても、登場人物のほとんどは「火山島」とつな

がっていてなじみがあり、ほんと続編を読んでいるぞという気分になります。

それでも読み始めたうちは、調子があがらずでなかなかページをかせぐこと

ができずでした。430ページほどの作品を4ヶ月かかるということは、

一日あたり3ページくらいというペースであります。

 残りが少なくなって、やっとこさ1日20ページくらい読みすすめること

ができていて、次の返却日にはめでたくお返しすることができるのではない

かと思っています。

 それにしても、金石範さんは1925年のお生まれでありますから、この「海

の底から」を岩波「世界」に連載していた2016年から2019年というのは、

90代でありまして、「持続する志」というのは、こういう人のためにある言

葉でありますね。

 二十世紀に日本語で書かれた小説としては、大西巨人さんの「神聖喜劇

とならんで、有名で読まれることの少ない「火山島」でありますが、これなど

谷崎潤一郎賞にぴったりだけど、「神聖喜劇」で大西巨人さんが選考委員の

だれも読んでいると思われないのに、そういう選者に選んでもらわなくても

といって(ちょっと不正確な引用)辞退したこともあって、「火山島」全三巻

が完結したときにも候補作になることはなかったようであります。(この時代

には候補作が明らかになっていないので、ひょっとすると候補になっていたの

かもしれませんが。)

 「海の底から」もここまできましたら、先を急ぐ必要はないようであります。

この作者の金石範さんは、この作品の背景となる1948年の「済州島四・三事件

のときには、すでに日本に住んでいたのですが、この時に済州島にいて、この

小説に描かれている済州島で反乱に加担し、それの敗北後に逃れて日本に渡っ

て来た一人が金時鐘さんでありまして、金時鐘さんはいまだにどのようにして

日本に逃れてきたかを明らかにすることはできないといっていましたです。