「本の話」 鼎談書評 

 松山巌さんの書評集が西田書店からでて、それを見ていましたら、西田書店から、
さらに松山さんが参加した「本の話 鼎談書評」が刊行されたことを知りました。
 文藝春秋社「本の話」であれば、定期で講読していたと、バックナンバーを何冊
か取り出してきたのですが、連載されていた「鼎談書評」については、ほとんど
記憶は残っておりませんでした。
 「本の話」は、けっこう興味深いものがたくさんあって、そっちに眼を奪われて
いたのでありましょう。
 それで改めて「鼎談書評」のいくつかを見ることになりです。
 鼎談するのは井上ひさしさん、井田真木子さん、松山巌さんの三人で、その回ご
とにうちの一人が三冊の本を用意して、それについて話をしていくことになります。
 手もとにあって松山さんが用意した三冊です。
 六回目(1995年12月号)となりますが、ここでは「道を極める人たち」ということ
で、次の三冊があがっています。

ロッパの悲食記 (ちくま文庫)

ロッパの悲食記 (ちくま文庫)

脱獄者たち―管理社会への挑戦

脱獄者たち―管理社会への挑戦

 いずれも、この年の新刊でありました。
 この三冊の鼎談で、うまくかみ合っていて面白いと思ったのは、矢野誠一さんの
芸人について書いた本を語り合ったもの。
 松山さんは、芸人の話が好きでよく読むが、この本は酒と博奕と芸といったものに
賭けた人たちの面白さが描かれていますと切り出しますと、これを井上さんが「時間
をかけて書かれていますね。」と受けます。
 井上さんは、若い頃に「てんぷくトリオ」のコントを五百本近くも書いていますし、
浅草の「フランス座」で働いていたのですから、この芸人の世界は熟知しています。
 となると、井田さんは、どのような視点でからんでくるかでありますね。そう思っ
ていましたら、次のように発言です。
「私が生まれた家のすぐ近くに、芸人さんたちだけのアパートがありまして、うちだ
け商売じゃなかったものですから、他のうちのお父さんは皆夜働きに行くのに、なぜ
うちだけ昼間働きに行くんだろうって思っていたんですが、それで芸人さんの日常生
活を間近でみて育ったんですが、芸人さんってほとんど笑いませんね。」
 芸人さんたちだけのアパートといえば、なんとなく下町にあるちょっと古い木造の
建物を思い浮かべてしまいます。芸人さんたちは売れっ子になったら、もっといいと
ころに引っ越ししたいと思っているのかな。
 井田さんが、すぐ近くにといっているのですから、彼女もそのような風景のなかで
暮らしていたということですね。
 この井田さんの発言に、井上さんがすぐに反応して返します。
喜劇俳優が舞台から下りたとき真面目でないと、舞台と普段の自分の差が分からな
いから」、普段の芸人さんは、あまり笑わないのが大切と言うのでした。
 この鼎談の最年長と年少のお二人が亡くなって、松山さんが残っているのですが、
松山さんが健在のおかげで、鼎談してから20年も経過して、本となることになりです。
三人よれば楽しい読書

三人よれば楽しい読書