返却日近し 4

 当方が最初に購入した渋澤龍彦の本は何であったろうかと、渋澤さんの年譜で確認
です。渋澤さんの世界にぞっこんまいっていたということはなかったので、比較的
遅くって、たぶん「偏愛的作家論」でありましょう。こちらには当方好みの作家につ
いてのエッセイが収録されていましたから。
 「偏愛的作家論」は1972年6月刊行とあります。この時期でありますと、当方は京都
のどこかの本屋で購入したものでしょう。(調べたら、どこかわかるだろうかと思い、
古い手帳を見たのですが、この本を購入したことは書いてありませんでした。)
 「偏愛的作家論」は、ちょっとかわった版型のもので、それが当方のような物好き
にはうれしいのでした。当方が予備校時代に知り合った畏友は、高校生の頃に刊行さ
れた「瀧口修造の詩的実験」を持っておりまして、それを見せられた当方は、なんと
へんてこりんな本であるなと思い、こんな本がほしいことと思ったのです。
 72年6月の当方の日記には学校にもいかんと、一日は働いて1900円のバイトをして
いるとありましたので、980円の「偏愛的作家論」を買うための資金はあったようで
す。
 そんなことを思いながら「ドラコニアの地平」をみていましたら、作家山尾悠子
さんの文章が目に入りました。
「70年代あたりに青春期を過ごした者で、似た経験を持つ者はさぞ多いのだろう。私の
場合は入学したての同志社大学図書館で、桃源社版『渋澤龍彦集成』の背表紙の真っ黒
な並びに目を留めたことが始まりだった。・・・これはいったい何なのだ。田舎からで
てきたばかりの小娘はまさに仰天し、それから瞬く間に京都書院河原町店あたりで渋澤
サイン本などを漁る日々となった。」
 渋澤本というか、現代思潮社とか桃源社のような版元のものは、京都書院河原町店が
品揃えがよろしでありました。山尾さんは当方よりもすこし若い方であるようですので、
京都書院河原町店ですれ違うことがあったかどうかですが、70年代京都の青春期ですね。