かのひとをわれに

 昨日に辻邦生さんの「背教者ユリアヌス」を話題にしましたら、その本を手にしたく
なりました。そう思って、函入りの元版をみようとしましたら、見えるところにあり
ますのに、取り出すのがたいへんでありましたので、これを手にするのは中止です。
 たしか「背教者ユリアヌス」は、エピグラフがあって、それは「かのひとをわれに
語れよ ムーサ」というホメロスオデッセイア」の冒頭であったはずです。
このエピグラフにこたえる形で、辻さんは「ユリアヌス」について語り始めるので
ありますが、辻さんの小説には「かのひとをわれに語れ」というタイプのものがいくつ
かありです。
 どういうわけか、当方が未読の辻邦生さんの作品には、実在の人物をとりあげた大作
がいくつかありまして、それらを計画的に読まなくてはと思っているのですが、さて
どうなりますでしょう。
 その作品は、「春の戴冠」「樹の声 海の声」そして「西行花伝」であります。
ということで、「かのひとをわれに語れ」に導かれて手にしたのは「西行花伝」となり
ました。

西行花伝 (新潮文庫)

西行花伝 (新潮文庫)

 元版を買ったのが1995年、これで読めるかと文庫を買ったのは1999年でありますか
ら、ずいぶんと寝かせておいたものです。いよいよその時がきましたですね。
 冒頭から辻邦生の語りが楽しめるものであります。
「あの人のことを本当に書けるだろうか。あの人 私が長いこと師と呼んできたあの
円位小人、西行のことを。」
 そういえば西行というと桜でありまして、当地の桜はあとひと月くらい先のことと
なります。それまでに、この作品を読んでしまわなくては。