読んでしまった

 しばらく読み終えないようにしようと思っていたのに、松家仁之さんの「光の犬」を
読み終えてしまいました。
 小説の最後の最後のところで、小説のタイトルにもなっている「光の犬」が登場して
441ページの作品が、すとんと落ちるなんてことはなく、読み終えた瞬間に、この作品
の読み方に正解はあるのかと思いましたです。
 他の人たちは、この作品を読んでどのように感じるでしょうね。
作者よりも7歳ほど年長で、北海道に生まれ育って、京都で学生時代を過ごし、東京でも
数年仕事をして暮らした当方には、あちこちにそうだよなと思いあたるところがあって、
人ごとではないなと身につまされながら読んでおりました。
 たぶん、そういう読みもありでしょうが、それだけではなく、別な読みをしてもらい
たいと作者は思っているのだろうな。直線的で、複層でないどちらかという単純なお話
は、あまり解釈の余地はありませんが、この作品のようにちょっとしかけのある作品は、
あちこちにひっかかって、登場する一族とそれに関わりのある人物の誰かに感情移入を
して、そこから話を組み替えていくのが必要なのかもね。
 ちなみに、この小説の書き出しの一行は、次のようになります。
 「添島始は消失点を背負っていた。」
 添島始というのは、主人公といってもよい登場人物となり、これには疑問の余地は
ありません。それじゃ「消失点を背負う」とは、どういうことなのか、この小説を最後
まで読めば、この疑問は氷解するのですが、それじゃ「光の犬」はどうなったか。
 うーむ、これは読み返すしかありませんね。ということで、しばらくは楽しむことが
できる小説であります。

光の犬

光の犬