「みすず」8月号 3

 「みすず」8月号の巻頭におかれた「追悼 ジョン・バージャー」でありますが、
ジョン・バージャーが亡くなったのは、2017年1月2日のことで、ちょっと時間が経過
しています。
 どうやら、この追悼という企画は、バージャーの文章「屈することなき絶望」に触
発されて綴られたノーマ・フィールドさんの文章が先にあり、その元になった文章が
翻訳され、あわせて掲載されたようにも見えます。
 バージャーの「屈することなき絶望」は、けっこうわかりにくい構成となっていま
して、このあとに置かれたノーマさんの「『屈することなき絶望』を読む」が、理解
を助けてくれるようであります。
 ノーマさんは、昨年のUSA大統領選の結果にショックを受け、日本からシカゴに戻っ
て息子さんと話をした時に、息子さんが最近読み返しているといってあげたのが、
ジョン・バージャーの著作であったとのことです。
それでノーマさんもジョン・バージャーを再読することになったのですが、10年ほど
前に読んだ時には、まるでスルーしてしまった「屈することなき絶望」という表現が
脳裏に焼きついたということになります。
 このノーマさんの文章のなかほどで、バージャーの文章を要約しながら紹介してい
ます。
「『屈することなき絶望』というエッセイは、占領地区にかろうじて暮らしつづける
パレスチナ人の寸描からなっている。すでに狭かった領土は度重なる略奪でさらに狭め
られ、それすら『分離壁』によって猫の額と化しつつある。国際社会はイスラエル
入植政策を批判してきた。国連安保理も2016年12月に非難決議を採択した。壁について
は、国際司法裁判所が違法判決を下している。恐怖と屈辱をもたらす検問所。イスラエ
国防軍による空爆や戦争の出動が残すガレキの散乱。人の動きも、物流もむずかしい。
生業が奪われていく。新しい入植地は新しい道路を要する。そのためには生活の糧で
あるオリーブの木が何百本も伐採される。作業に当たるのは主に失業中のパレスチナ
人。この姿勢も『屈することなき絶望』の一例、とバージャーは書いている。」
 大統領選のショック、それにあわせてノーマさんの母の国 3・11後の日本で
進行している事態が重なります。
「『屈することなき絶望』に戻ると、このエッセイにつよく惹きつけられたきっかけ
はトランプの勝利だったが、その背後には、遠くにではあるが、福島第一原発災害の
なりゆきを見つめる経験が横たわっていた。あれだけの惨事が起きたのだ。いくら
なんでも日本も変わるだろう、とも期待した。そしてみごとに、人々は反応し、デモ
も復活した。
 しかし再稼働も。
 東京オリンピック誘致決定が2013年9月。同年12月に特定秘密保護法が成立。
安保法制は2015年9月、そして2017年の6月に共謀罪。」
 この国の在り方と人々は大丈夫かというのが、ノーマさんの提起のようです。