世間の人 12

 福田定良さんの林達夫さんについての文章からです。
 文章の前半が、林達夫さんの西洋的なものの考え方と哲学を話題にしているとすれ
ば、後半は「仕事の場をアマチュア精神で行くという一つの生き方」が話題となりま
す。
「林式(喜劇的)処世術は、いいかえれば、『仕事の場をアマチュア精神で行くという
一つの生き方』なのであった。ここのところも、大衆の属性をアマチュアとして考えて
きた私に同志的感動をおぼえさせてくれた。いま私は、哲学の仕事をアマチュアの仕事
として見直そうとしている。なんと、先生の考え方は私のそれに似ていることであろう。
もしかすると、哲学の落第生と自称した先生こそは私が夢みる喜劇的な哲学の開拓者な
のであるまいか。
 だが、私の幻想はすぐに破れてしまった。先生によれば、アマチュア精神とは
ヨーロッパで発達したものであって、立派に飯がくえる能力があってもアマチュアとし
て当の能力を発揮するという精神なのである。・・・
 もし、立派に飯がくえる能力が私にあったら、私はよろこんでその道のプロになった
であろう。私はアマチュアにしかなれない人間である。そういう人間とあえてアマチュア
としてふるまうことができる人間との間によこたわる距離はほとんど無限である、と
いわねばならない。」
 ここでもまた絶望的な距離を感じるわけであります。