真空管の話題 2

 柴田翔さんの新作「地蔵千年、花百年」のページがなかなか進まないので、気分を
変えるために短編「ロクタル管の話」を手にしておりました。
 当方が子どもの頃は、ラジオもステレオもすべて箱の中には真空管がはいっていま
して、真空管がどのくらい使われているかというのが、品質を左右していましたです。
とはいっても、子どものころにラジオの中にはいっている真空管を抜き差しして交換
するということをしたことがありませんでした。
 真空管のスペアをもったり、差し替えたりしたのは、真空管のステレオアンプを使
うようになってからですが、これは70年代のことでありまして、この時代にはロクタ
ル管はまったく使われなくなっていたようです。
 柴田さんの小説(初稿は1958年)の書き出しは、次のようなものです。
「ねえ、君。君はロクタル管を知っているかい。ロクタル管と言うのは、あの、ラジ
オに使う真空管の一種なので。今でこそガラスのスマートな円筒型のGT管や、ドング
リのように小さいミニチュア管、それに全部鉄で出来、その上に黒光りのする塗料を
ふきつけてあるメタル管だって珍しくない。それどころか、トランジスターと言うも
のが出て来て、真空管それ自身がラジオの中では何となく間が抜けて見えるように
なってしまった。」
 60年も前の話であります。この時代において、すでにロクタル管というのを知る
人が少なくなっていたことがわかります。
最近のNHK朝のドラマで、主人公が東京の町工場でトランジスタラジオを作るシーンが
ありましたが、あれは1964年頃のことでした。64年頃のラジオは真空管が主流でありま
して、当方の高校時代(1969年まで)は大きな箱にはいった5球スーパーといわれる
真空管ラジオを愛用していました。
 この小説を最初に読んだ時には、作中でロクタル管を説明するくだりを読んでも、
具体的なイメージがわかないのでありましたが、今はありがたしでネットで検索をし
て、見ましたら、作者の思い入れたっぷりの文章がほほえましく思えます。
 それはさて、この作品が描いている時代は朝鮮で戦争が始まった頃です。
それもあって、次のようなところもあります。
「その年のはじめ頃から、戦後何を作っても売れていた電気関係の会社の経営も次第
に苦しくなり、小さな会社は次々と潰れ出していた。・・そして次にはいよいよ、日本
最大の電気メーカーの一つであるT社が危いと噂さされ始めたので、ぼくらはT社倒産の
時に買い込む商品を夢にえがき、そしたら、あれを作ろう、これも作ろうと、期待にみ
ちた希望をふくらませていたものだった。ところが、ところがである。そこに朝鮮で
戦争が始まり、途端にT社は滞貨になっていた何十万個とか、何千万個とかの乾電池を
米軍の特需に売り尽くしたとか言う話で、たちまち社運隆々、立ち直ってしまった。」
 T社というのは、最近になって経営危機に陥っている会社のことでありましょうか。
日本経済にとって、朝鮮戦争というのが神風のようなものであったことがわかります。
さて、日本経済にとっての救いの神は、やはり朝鮮半島危機に求めざるを得ないので
しょうか。