話は戻って

 先日に亡くなった長谷川元吉さんが装幀をした長谷川四郎さんの「ベルリン物語」
勁草書房版を手にしています。元吉さんの著作「父・長谷川四郎の謎」はプロローグ
のところを読んでおしまいとしました。
 やはりベルリン散歩に戻らなくてはです。
 最近のお若い方は、ドイツ分裂国家であって、さらにベルリンが東西に別れていて
その二つの地区が壁で隔てられていたなんてことをご存知ない方もいるのでしょう。
ドイツが再統一したのは1990年のことですから、もう四半世紀も前のことになりで
す。
 当方は1951年に生まれましたので、物心がついたときには、すでにドイツは分裂し
ていて、その状態は固定化してずっと続くものだと思っていました。(いまや分裂
国家となっているのは、朝鮮半島の二国でありますが、これはずいぶんと永く続いて
いて、いまだ再統一への道筋は見えないようです。)
 長谷川四郎さんの「ベルリン物語」は、1960年3月から9ヶ月にわたるドイツ滞在記
となります。これを読んで驚くのは、この時代のベルリンに壁がないことであります。
東西のベルリンに別れてすぐに壁は建設されたと思っておりましたら、そうではない
のでありますね。
 現在は「ベルリン1960」というタイトルになっているのですが、そのことについて
四郎さんは1976年に刊行した「北京ベルリン物語」で、次のように記しています。
「ベルリンはあったし、今もある。だが、1960年のベルリンと限定するならば、この
限定の範囲内で、それはもうないといってもいいだろう。それというのも、翌1961年
には『ベルリンの壁』が『中国の壁』のようにーつまり万里の長城のように築かれて
それでその壁のなかったベルリンの最後の年が1960年ということになるわけだ。」
 ベルリンが壁で隔てられていたのはたかだか30年で、その期間には、将来の統一
ドイツの首相に東ドイツ出身の女性が就任するとは思ってもみなかったことでしょう。