花に雨

 北上を続けていた桜前線は、連休中に当地にもたどりつき、あと数日で日本の東端
に到着するとのことです。
 昨日は晴天になって、公園でお花見の人が多く見受けられましたが、本日は曇天で
気温も低く、すこし厚手のコートを着用して桜の写真をとってきました。本日は夕刻
から雨となり、盛りを過ぎた桜は、これでどっと散ることになるのでしょう。

 庭に花苗を植え付けたり、鉢に植えた挿し木バラの鉢増をしたり、二坪に足りない
菜園を起こしたりで、この桜の時期はやることがいっぱいであります。雨の日には、
家にはいって本を読んでいればよろしなのですが、録画して見ることのできていない
TV番組を見たりもしなくてはいけなくて、いやはや定年後は時間がたっぷりとあると
いうのはどこの話であるかな。
 相変わらずで、あれこれの本を併読中でありますが、まずはこれをやっつけなくて
はと思っているのは、里見とん「安城家の兄弟」となります。ずいぶんと時間を要し
ていることで、それでいてやっとこさ中巻の真ん中くらいであります。話としては、
主人公が関東大震災にあって、都内で避難をしようとしているところです。都内にな
どいないで、早く家族が住んでいる逗子に戻ればよろしいのにと思いながら、読みつ
いでいます。
 最近の読んだところで受けたのは、次のくだり。主人公と幇間の三平さんが、避難
するシーンでのやりとりです。
「洗いざらしの寝間着を、べろんと裾長に着て、何を見詰めるともなく、地上に目を
落してゐる三平が、ふと昌造に、腑甲斐ない、だらしがない、といふやうな感じを
与えた。
『おい!』
 知らず識らず突慳貪に声が尖って、『しっかりしろよ!きりッとかう尻でも端折つ
たらどうなんだい』
『え?あたしですか?』
『威勢よく尻でも端折れッてんだよ!』
『ところが、そいつがいけねえんだ』
にやにや笑ひながらそばへよって来て、『・・・していないんですよ』
『え?』
『いえね、いつもあたしやァ、寝しなにぬいで寝る癖になってるもんだから・・』
『なんだ、ふりか?』
『さうなんですよ』
さすがに顔を赤らめて、ヘラヘラ笑ひだしたが、てれ隠しにすぐまた言葉を継いで、
『ですから、あなた、うっかり尻なんぞまくらうもんなら・・・・』
『だらしがねえなァ』
『だらしがないたって、それァあなた、仕様がありませんよ。ガラガラピシヤンと
来た時にやァ、もうあなた・・・』」
 この辺の会話のやりとりは、まことに軽妙なことであります。

安城家の兄弟 (中) (岩波文庫)

安城家の兄弟 (中) (岩波文庫)