先月から読み始めました里見とん作「安城家の兄弟」を、今朝がたのふとんの中で
やっとこさで読了です。岩波文庫で三分冊ですが、なかなか一気読みすることができ
ないもので、読みすすめている時にも記しましたが、「安城家の兄弟」とはいうもの
の、思ったほど兄弟が登場しないというものです。
この本についての紹介などを見ますと、里見の兄である有島武觔の死についてが、
中心的な話題であるとあるものの、当方の頭にはそこのところは、強く印象に残らず
でして、むしろ主人公と妻、それに愛人との生活が描かれているところに興味を感じ
ました。
これが書かれた時代(昭和の初め)には、芸者を愛人とするのは、別に珍しい話で
もなんでもなくて、ごくごくありふれたことであったのでしょう。有名な政治家でも
奥さんが亡くなってから愛妾を正妻としたなんて例がありますからね。そういえば、
数年前に亡くなった著名な経営者も、後妻に迎えたのは芸者さんだったということが
ありましたです。
こういう例は、そこそこあるにしても、健全な市民社会の通念からしますと、やは
り違和感ありでして、妻がありながら、外に芸者を囲っているというとワイドショー
の餌食になること間違いなしです。
まあ、そんな今の常識で、80年も前の小説を評価してもどうにもならないのであり
ますが、この時代に読みますと、こんなところがひっかかってしまうことです。
「安城家の兄弟」というタイトルに関しては、この文庫のあとがきで作者自らが、
「『安城家の兄弟』に適わしい小説は、いづれ更めて書くつもりでゐる。この作は
冒頭の数章を『改造』に連載した折の『善魔』と称すべきだったが、この際の改題は
わざと差し控えた。」
「適わしい小説」が書かれたのかどうかは承知していませんが、兄弟よりも妻妾
もののほうが面白いかもしれません。
それにしても、最近の女性には薦めることのできない作品ですね。
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