山本恵一郎さんが小川国夫さんの年譜を制作していく過程のなかで、「よい年譜を
つくりたい、よそには負けたくない。わが『小川国夫年譜』を最上等の年譜にしたい、
多分、そんなこと」から、「一般にはどういうものを指して年譜といっているのか、
どの作家はどんな年譜をもっているのか」ということで、作家の年譜を集めて分析し
たのだそうです。
この「年譜制作者」には、そのなかから「阿部昭」「吉行淳之介」「小田実」など
の例が引用されています。特に多くのページを割かれているのは「阿部昭」さんのも
のとなります。
「『元来、作家の年譜というのは面白い読み物であるが』(短編小説礼讃から)と書い
たのは阿部昭氏であるが、それに続く文章を読むと彼の関心が作家の人生に向けられ、
作品をそこに重ねあわせて読んでいることが判る。・・・
阿部氏にとってよい年譜とは、人生が読みとれる年譜、ということだったかも知れ
ない。きっと彼はそれを『面白い読み物』といったのだろう。・・
阿部氏は、大方の作家が年譜を制作者にまかせているのに反して、年譜に一家言あっ
たからか、或いは『面白い読み物』だから自分でやろうと思ったからか、自作年譜で
通していた。」
ということで、阿部昭さんが生前に作成した自作年譜と、死後に岩波書店から刊行
された「阿部昭集」のために栗坪良樹さんが作成した年譜の比較を行うことになりま
す。
「栗坪氏は、阿部氏の作品(主としてエッセイ)からの年譜的事実の引用と、作品発
表時の書評、時評の引用を重ねることでそこを補い、その方法に徹することで『栗坪
良樹制作の年譜』としている。栗坪氏がここで『或る種の阿部昭評伝』を思考したこ
とは明らかだ。彼は年譜制作者としての立場を厳格に守り、自分を外に置いて、阿部
氏の自作年譜を核にそれを編み上げた。」
山本さんは、栗坪さんによる「阿部昭年譜」を、このましい年譜の在り方と思って
いるのですが、これは作家による自筆年譜があって、しかも作家没後における制作で
あるというようなことがプラスに働いたとも記しています。
小川国夫という現役作家の年譜制作において、それは望むべくもなかったようで、
そのことが、山本さんが小川さんの年譜制作者をやめ、小川国夫さんの評伝を執筆
することになるのでした。
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