雑誌の特大号 3

 当時文庫で読むことができなかった小山清さんの「落穂拾い」は、いまはちくま文庫
で読むことができるようになっています。この雑誌に再録された時とくらべると、今の
ほうが小山清さんの人気は高いように思います。

落穂拾い・犬の生活 (ちくま文庫)

落穂拾い・犬の生活 (ちくま文庫)

 「落穂拾い」は、売れない小説家の日常を描くものでありますが、そのせいもあって
川崎彰彦さん好みの作品でありました。川崎さんの本には、この作品から「お前も生き
て行け。」というところが引用されていました。
 それとこの作品の後半は、古本屋を舞台とした小説ともなっています。
「僕は最近ひとりの少女と知り合いになった。彼女は駅の近くで『緑陰書房』という古本
屋を経営している。マーケットの一隅にある小さな床店で、彼女は毎日その店へ、隣町に
ある自宅から自転車に乗って出張してくるのだ。
 彼女は新制高校を卒業してから、上級の学校へも行かずまた勤めにも就かず、自ら択ん
でこの商売を始めた。」
 最近におしゃれな古本屋さんを開く若い人がいますが、これは今から60年も昔の話で
あります。本当にこのような店があったのかどうかわかりませんが、「緑陰書房」という
名前が記憶に残ります。
 これが強く印象に残るのは、この小説新潮臨時増刊号にある滝田ゆうさんの挿絵のおか
げであるかもしれません。文芸雑誌というのは、挿絵が入らないのが当たり前であるので
しょうが、中間小説雑誌は、ほぼ必ず挿絵がつきます。
 その昔の古本屋を、滝田ゆうさんが描いたのが、下に掲載のものです。

 小説は言葉で世界を描くものでありますから、視覚に訴えるイメージは余分であるとも
いわれそうですが、滝田ゆうさんの絵をみますと、小山清さんの世界に膨らみがでるよう
に思います。