波と図書 9月号 2

 「図書」で毎号楽しみにしているものに、高村薫さんの「作家的覚書」という連載
があります。9月号は「少数派の独り言」というタイトルとなります。
 当方もこのような駄文を書き続けているのですから、けっして社会の多数派ではな
く、天然記念物ではありませんが、かなり稀少な存在となりつつあるのでしょう。
高村さんがいうところの少数派というのは、そこまでのことではなく、数ヶ月前に行わ
れた参議院議員選挙の結果についての話であります。
「与党とその補完勢力で三分の二を超える議席を獲得する結果となった先の参院選も、
終わってみれば、これが戦後日本の決定的な曲がり角になるという実感はむしろ茫洋と
しており、一日本人として何をどう悔やみ、怖れたらよいのか、なかなか明確な言葉は
ない。老いも若きも将来不安を抱え、ただひたすら安定を求めた結果が与党の圧勝だと
すれば、筆者のように三分の二を怖れるのはいまや少数派の杞憂、もしくは時代の趨勢
に反した特殊な考え方ということになろう。」
 「決められない政治」はお断りというのがありましたですね。そうなるとごりごりと
決める政治に傾斜していくようです。いったん傾斜していくと止まらなくなってしまう
のが、最近の社会のようです。最近のテレビ番組欄やネットニュースのヘッドラインを
見ましたら、この国は大丈夫かなと思ってしまいます。
 高村さんの文章の続きを見てみます。
憲法は、時代に合わせて変えればよい。憲法前文の主語が国民から国家に変わっても
大したことではない。それよりとにかく景気対策を!こう叫ぶ多数派は、この先起きる
であろうことへの想像力を決定的に欠いてはいるが、何であれ時代の大きな流れをつく
り、そこにのみ込まれてゆくのが多数派というものだろう。」
 テレビのワイドショーにも週刊誌にも、ほとんど縁のない当方は、立派な少数派で
ありまして、いまのところは生きにくさをあまり感じていないだけ、ありがたいかな
です。ネットの宝くじの広告の「私たちも、ニッポンのお役にたちたい」なんてキャッ
チコピーを見て、これはなんかへんだぞと思わないなんて、「この先起きるであろう
ことへの想像力を決定的に欠いてはいる」でありますね。