本日の本 3

 岩波新書「生きて帰った男」は、小熊英二さんが父小熊謙二さんへの聞き取りを
まとめて本としたものです。

 小熊英二さんのあとがきには、次のようにあります。
「学術的にいえば、本書はオーラルヒストリーであり、民衆史・社会史である。社会
的にいえば、『戦争の記憶』を扱った本であると同時に、社会構造変化への関心に応
えようとしたものである。」
 一番身近な肉親を取り上げることで、そこから戦前から戦後を生きた日本人男性の
肖像を描くこと作業となります。ここで描かれた男性の肖像が、読む人に訴えること
となるかです。
 当方は、小熊謙二さんの生年が、当方の父親のものに近いことや、北海道の田舎で
生まれたというような共通点があることから、自分の父親に生活歴を重ねることで、
これを読むことができました。 
 小熊英二さんは、「本書の対象人物は、都市下層の商業者である。」と記している
のですが、こういう無名の人物が、良き聞き手に恵まれるということは、極めてすく
なくて、そうしたことからも貴重なものとなりました。
 この手法を使って、皆さんも自分の身近な人に聞き取りをして記録を残していきま
せんかというのが、小熊英二さんが一番訴えたいことであるのかもしれません。
 政治家への「オーラルヒストリー」というのは、最近ずいぶんと目にするように
なっているのですが、戦後の高度成長に関わった人たちへのものは、これからであり
ます。
 この本は、それに先だったオーラルヒストリーによる著作「在日一世の記憶」での
経験を活かしてのものとあります。
在日一世の記憶 (集英社新書)

在日一世の記憶 (集英社新書)

 話を聞いて、それを文字化するところからしか始まらないのですが、やってみなさ
いと背中を押してくれるような本であります。