堀江さんとギベール 3

 ギベールの「赤い帽子の男」を読んでいて、なかなか前に進まず足踏み状態であっ
たときに眼にしたのが、昨日に引用したブルース・チャトウィンについてのくだりで
ありました。
 これに続いてにやりとしたのは、次のところであります。
「あとは複製ですら一度も見たことがないと思われるベーコンを一枚見た。例の法王
たちのエスキスで、シンプルな、紛うかたなき至高の一品だ(四千五百万フラン、旧
フランで四十五億円)。世界最大のベーコンのコレクターが、一、二、三、四、そし
て第五作まで、『ロッキー』を凝りもせず演じ続けているシルヴェスター・スタロー
ンそのひとであることを、ぼくは思いださずにいられなかった。」
 シルヴェスター・スタローンの映画は、まったく見たことのないのですが、この方
フランシス・ベーコン(もちろん画家)作品のコレクターであったとは、知りませ
んでした。これについて、もうすこしどこかに書かれているところはないだろうかと
思いましたが、さらっと見たところではほとんど詳しいことはわかりません。日本語
の世界では限界があるかな。
 これに続いてにやっとしたのは、ギベールが描く主人公が好む作家についての名前
の羅列です。
チェーホフレスコフバーベリ、ブルガーコフドストエフスキー、ソウセキ、
タニザキ、シュティフターゲーテムジールカフカ、ウンガー、ヴァルザー、
ベルンハルト、フローベル、ハムスン・・」
 ここには、ロシア、ドイツ、フランス、そして日本の作家の名前があがっています
が、「ソウセキ、タニザキ」というのにはとにかく驚きです。
 さらに驚くのは、このリストを目にする数ページあとになります。ここまで足踏
みをしていた「赤い帽子の男」は、そこから読書のペースがあがってきます。
 これは当方のみならずであるようで、堀江さんは「下降する命の予感」に、この
シーンをとりあげて、この作品の「山場のひとつと呼びうるものだ」といっていま
す。それは、主人公が、画家バルテュスを訪ねてインタビューをするところとなり
ます。