審議未了

 昨日から安保法案の参議院での採決にむけて大詰めの攻防でありますが、例によっ
て委員会では、与党が採決を強行であります。採決の理由は百時間を超える議論を
したことと、野党が求める公聴会を実施したから、手続きとしては十分に丁寧に行っ
ているというものです。これでも国民には理解してもらえないかもしれないが、
どうしても通さなくてはいけない理由が、政府にはあるということだけはわかって
もらいたいということなのでしょう。

「安保条約そのものの是非については、国内の世論がわかれていたので、一致して
反対に向かっていたのではない。大多数の国民が政府に反対したのは、条約の内容
についてではなく、条約の批准手続きについてであった。条約の内容は、日本国の
対外関係に係り、条約の批准手続きは、国内の民主主義に係る。いわゆる『安保
闘争』の未曾有の大衆動員は、国内問題であった。そのとき国民大衆と反対党が、
岸内閣にもとめたことは、こういうことである。新安保条約の批准については、国
内の世論がわかれているから、議会を解散して民意を問え。周知のように、特の
与党は、衆議院議席の絶対多数を占めていた。しかしその議席の配分を決定した
総選挙は、『安保』の問題を争点として行われたのではなかった。しかも新安保
条約の内容が知れわたると共に、その議席の配分が、賛否の世論の配分を反映して
いないことが、いよいよあきらかになっていた。」
 上に引用したのは、加藤周一さんの「続 羊の歌」の最終章「審議未了」からで
ありました。

続 羊の歌―わが回想 (岩波新書 青版 690)

続 羊の歌―わが回想 (岩波新書 青版 690)

「東京において、『安保賛成』を称えるのは、北京において、反対を呼号するのと
同じように、容易で、安全で、当人の立身出世にとっては好都合なはずであったろ
う。もちろん東京の賛成者のすべてが、将来の好都合を考えていたわけではあるま
い。しかし論戦において、権力の利害との一致は、論者の頽廃を招きやすいように
思われる。圧倒的な力を背後にして、議論を進めるのと、理くつの他には何の支え
もなくて議論をするのでは、条件がちがう。その条件のちがいを知らないとすれば、
それは知的頽廃であり、そのちがいに敏感でないとすれば、それは道義的頽廃であ
る。」
 これが書かれた時から50年ほど経過して、「知的頽廃、道義的頽廃」はいっそう
ひどくなっているようです。