高校駅伝といえば 3

 高校駅伝についての山田稔さんの小さな文章を話題としています。
「日本小説を読む会」という比較的内輪の会報に掲載したせいもあるのでしょうか、
めったにないこと、家庭での家族の様子がえがかれています。
「あわてふためく二人」というのは、上の二人の子供であるとのことですから、この
ほかにもいるのであるなとか(この後に下の女の子が登場するのでした。)、この時
に引きずっていったとあるということからは、せいぜい小学校の低学年だろうなとか
想像をたくましくするというのも楽しいことです。
 山田さんが下鴨高木町電停についたところで、トップを走るヒヨコ色のチームが近づ
いてきます。
「先導の白バイの赤いヘッドライトが近づき、その後に二位との差を大きくあけて悠々
トップを走るたくましいヒヨコ色。うわっ、かっこいいな。優勝のパレードみたいやん
け。思わず手をたたく。つられて二人の子もパチパチと拍手する。そこへ息せき切って
妻が下の女の子を引きずって駆けつける。うわっ一家総出だな。そのときちょうど
やってきたのはゼッケン31、世羅高校である。
『セラ!セラ!しっかり!』
と彼女はあえぎながら声援を送る。うへっ、かっこわる。他の見物人の手前、照れかく
しに、ケ・セラ・セラとまぜかえす。世羅は彼女の故郷広島県の代表校なのである。
このパトリオチスム(愛郷心)の発作にはときに閉口させられるのだ。・・・・
 その日は親も子もエキデンの昂奮がさめなかった。・・・」
 この文章を読んでからは、世羅高校のことが気になるようになりました。この時代
の世羅は駅伝強豪校でありましたが、その後は、外国からの留学生を擁した私立高校
に適わないようになっていました。2000年代にはいってから県立高校としては異例の
留学生を受け入れて、見事に強豪復活して、本年は3年ぶり8回目の優勝を果たしまし
た。
 今も「親子でエキデン見物して昂奮」のご家族はいるのでありましょうが、この
文章を見ますと色々なことを思うことです。
 京都の駅伝コース沿いに住んでいる人にとって高校駅伝は、各チームが試走をかね
た練習に入るころからお祭りのような気分になるというのが一つ、もうひとつは地方
からの出身者にはふるさとチームを応援する楽しみが二つ、あとは一つは歴史に残る
ような走りを目にする楽しみです。
 山田稔さんの文章に導かれて、今はほとんど知られることのなくなった相原高校駅
伝チームのことを話題としましたが、今回の世羅高校の優勝を山田夫人は喜んでおら
れるのでしょうか。