旅に持参の本

 今回の旅に携行したものであります。
 自宅で直前まで手にしていたものとしては「文学界」12月号がありました。

文學界2014年12月号 (文学界)

文學界2014年12月号 (文学界)

 めったにこの手のものは購入しないのでありますが、この号には小林信彦さんの小説
「つなわたり」250枚一挙掲載となっていまして、これにつられて購入であります。
以前にも文芸誌に一挙掲載の小説を読むために持参したことがありますが、このときは、
その小説が掲載されていたところのみを、びりりと破いて旅の友としました。
なんとなく、植草甚一さんになった気分でありまして、植草さんは、持ちきれないくら
いくらいの本などを購入し、喫茶店で休憩のときに、雑誌などであれば必要なところの
みを切り取って、残りは自宅に持ち帰りをしないということを読んだことがあります。
この小説がおかれていたのは、122から203ページにかけてでありまして、なかなか切り
取るのがたいへんそうでありますので、これの携行は断念となりました。
 ということで、だいぶん前に購入して、いまだ読めていなかったものを持つことにな
りました。 この小説の帯には、「蒐集という奇妙な情熱  マイセン磁器の蒐集にすべてを捧げ
た男が人生の最後に残したミステリーとは?」とあります。
 マイセン磁器のコレクターを描いた小説ですね。小説の頭のところで、次のようなく
だりがあります。
「ウッツは驚くべき数と質のマイセン磁器の蒐集家だった。第二次大戦と戦後のスター
リン主義の時代にも、巧みに蒐集を守りとおした。1967年、ウッツ・コレクションは
千点あまり、すべてがシロカー通りの小さな二部屋の住居にぎっしりと収まっていた。」
 このコレクションは、世界的な規模のものとのことですが、この小説の書き出しは、
この主人公がなくなるところからはじまるのです。
「1974年3月7日、夜明け前一時間ばかりのころ、カスパール・ヨアヒム・ウッツは二度
目の心臓発作により、シロカー通り5番地の住居で死んだ。恐れていた二度目の発作が、
やはりいのちとりになった。」
 マイセン磁器の蒐集家とは、どのような生活をしているのか、やはり変人であるのだ
ろうか、そしてなくなったあとこのコレクションは、どうなったのでしょうかでありま
す。ミステリー仕立てではなく、コレクションがどうなったのかという関心からだけで
読むと、すこしがっかりとするかもしれませんが、自分が集めたコレクションともいえ
ない雑書の山が、なくなったあとにどうなるのかと心配をしている方々には、おすすめ
の小説といえるかもしれません。