私の読書遍歴

 先日に哲学者の木田元さんが亡くなられたとありました。
 当方は、木田さんが専門とする分野の本は、まったく読んだことがありませんが、
「私の読書遍歴」は楽しんで読みました。亡くなったのを機に、手にしてページを
開いています。

 だいたいが読んだかたはしから忘れてしまうのでありますからして、ほとんど
はじめて読むような話であります。
満州で育ち、中学を卒業してから海軍兵学校へと進学し、敗戦とともに家族のため
に闇屋まがいの仕事についたのち、農林専門学校を経て大学に進むという、この世代
でなくては経験することがないような生き方であります。(父上が旧満州国のえらい
人であって、敗戦後にソ連に抑留されていたことが影響しています。)
 この本のあとがきには、次のようにあります。
「世の中が落ち着いてから育ち、中学・高校・大学と順当に進んできた人たちから
見れば、ずいぶんデタラメな人生に見えるかもしれないが、戦後のあの時期、しかも
満州からの帰国者としてはそれほど珍しい経歴ではなかったのだ。いまになってみれ
ば、十七、八から二十四、五歳まで、それこそ青春のまっただなかであの混乱期に
遭遇できたのは幸運だったと思う。そのときは必死になって生きていたわけだが、
いまになって思えば実に面白い時代だった。」
 なんとか、生活の危機を乗り越えることができたことが、このようにいわせるので
ありましょうが、必死になって生きても結果がでなかった方も多くいたことはずで
あります。
 まあ、それはさて、これに続いてです。
若い人たちにも、いい会社に入るとか高い給料をもらうといったことを考えるより
も、好きなこと、したいことをして生きることをお薦めしたい。もっとも、自分が
なにをしたいのか、なにが好きなのかを見きわめるのがなかなか大変なことではある
わけだが、そして、できればいい本を読んで、深く感じ、深く考えることを学んで
もらいたい。繰りかえしにて言うが、本を読むのは情報を集めたり断片的な知識を
蓄えるためだけのものではないのだ。私たちは間もなく消えていなくなるわけだが、
こんなに私たちを楽しませてくれた活字文化があっさり消えてなくなったりしない
よう祈って筆を擱きたい。」
 「好きなこと、したいことをして生きる」というのも凡人には難しそうでありま
す。普通の人には、「好きなこと、したいこと」をきちんと持って、それを糧に
日々の仕事をしていくようにしようというほうが現実的と思われます。
 まあ人生の達人のような人の話でありますので、鵜呑みにしないほうがよろしで
すが、本を読んで生きていくというのには、両手をあげて賛成であります。