待ち時間に読む本 4

 「待ち時間に読む本」ということで、伊井直行さんの著作を話題にしています。
 伊井さんの小説をたいして読んでいるわけではないのですが、気になっているせい
もあり、すこし本をまとめて読めないかと思っています。
 伊井さんは大学に職を得てから、もっぱら小説ばかりを書いているわけにもいかず
で、評論のようなものも発表していますが、それが「会社員とは何者か?」でありま
す。初期の作品「さして重要でない一日」からして、舞台は会社であります。
そういえば、文芸文庫の自筆年譜では、「会社員」についての関心を、次のように
記しています。
「八十年代後半以降、私の小説に会社員がよく登場するのは、単に登場人物の職業と
してではなく、会社員という存在が本来的に物語の枠外にあり、小説の形では描出
困難であることを指し示したいからだった。小説は、その限界に向かって書くので
なければ面白くなかったので、だれにも理解されないとしても、私にとっては挑戦し
がいのある課題だった。
 また、一方で、会社ー会社員の存在の意味をその根源において捉えることなしに、
近代以降の社会の本質に迫れないという確信を深めてもいた。ただし、この確信を
共有してくれる人はなかなかみつかりそうもなく、まして世人の理解を得ることは
いかにも困難なようだった。このためには会社員の起源をめぐる小説を書く必要が
ある、と考えるようになるのだが、この構想は今も準備の段階にとどまっている。」 
 「会社員の起源をめぐる小説」というのは、いまだ発表されてはいないようで
ありますが、「会社員とは何者か?」というのは、このテーマにそったもののよう
であります。(いまだなかを見るにはいたっておりませんが。)