ありえへん世界 5

 国を離れて十数年も経過しますと、政変によって国の体制ががらっとかわってしまう
というのは、珍しいことではないのかもしれません。時によっては国が消滅してしまう
なんてこともあるようです。日本では、そこまではいかないかもしれませんが、昨年の
11月以前とそれ以降では、まるで違った国にでもなったようながんばりようでありまし
て、まったくもって迷惑なことであります。
 その昔に手にした本に引用されていた、次のことばを思い出しました。
「 不注意から、あるいは無能力ゆえに、少しでも人類の前進を停止させる者は、誰で
あろうと、人類の恩人だ。」 E・M・シオラン「苦渋の三段論法」より
 引用していたのは阿部良雄さんでありまして、「西欧との対話」にありました。
 すこしでも良い世の中をつくろうとしてがんばる人には注意が必要であるということ
でしょうか。すくなくともロシアの革命は良い世界の実現をめざして、結果として、
大粛清と強制労働を生んだのかもしれません。ヒットラーだって良い世界の実現をと
思っていたに違いありません。どんな悪党にもすこしは良いところがありますでしょう
が、それに目を眩まされてはいけません。
 ニコライ・ネフスキーさんが帰国してから4年たって、日本から妻と娘をロシアに
呼びよせるのでありますが、家族と同居してまもなく、夫婦の消息は不明となります。
日本人妻がスパイと疑われて拘束されたことが原因ですが、これ以来まったく音信不通
となって、第二次世界大戦後になったから夫婦が処刑されて、死亡したことが判明し
ます。
 ネフスキー夫人は、日本人女性で大粛清の犠牲になった数少ない一人と加藤九祚さん
は記しています。他にどのような方が犠牲になったのか知りませんが、数が少ないこと
はたしかでありましょう。
 当方が、ネフスキーさんに興味がわくのは、この女性が北海道生まれであって、その
出会いが北海道の小樽であったことによります。