本日の本 4

 なにしろ「神は細部に宿り給う」をモットーとする林達夫さんでありますからして、
細部へのこだわりは、普通ではありません。飯沢匡さんの文章には、林達夫さんの
発言として、「朝六時から夜六時まで夫婦で大工につきっきりで、建てたものです。』
というのを紹介しています。当時の大工さんが英国風の家にたいして知識があったと
は思えませんので、すべて林夫妻が監督・指示して完成させたということがわかり
ます。もちろん、林さんは工事期間中のずっと自宅にいるということは不可能と思い
ますので、夫人もなにを監督しなくてはいけないかということをご存知であったと
いうことになります。
 飯沢さんの文章からの引用を続けます。
「このような建物が弱点を示すのはドアの把手とか蝶番とかいった金物類であるが、
これがこの家では、ちゃんと筋の通ったもので調和よくしつらえてあるので私は
ただただ感じ入ったのである。・・・
 先生のお話だと、こういう金具も一つ一つ典拠があるようで、それを誂えて打たせ
たということである。私など見たことのない不思議な閂など、見飽きないのであった。」
 古い日本民家の材よりも、このような細部をつくっていくためのほうがお金がかか
るようにも思えることです。こうした家でありますから、話題となって雑誌でとり
あげられるのも納得であります。
 飯沢さんによりますと、昭和初頭には英国趣味が台頭したのだそうです。これは
真珠王といわれた御木本氏の御曹司が銀座にラスキン文庫を開いたり、柳宗悦の民芸
運動の展開も影響していたかとありました。飯沢さんは、すこし民芸運動には限界を
感じていたようではありますが。