レコードのある部屋 3

 オーディオ雑誌の「ステレオ・サウンド」には、どのような読み物があったのだろう
と思います。当方の友人にはこの雑誌の熱心な読者がいましたが、彼はこれに掲載の
記事等を参考に、オーディオ装置を購入したりしていました。その彼はレコードを購入
して音楽を楽しんでいましたが、このような箸休めのようなエッセイを読んでいたので
しょうか。
 三浦淳史さんは1913年生まれとのことで、旧制高校での生活を経験していますが、
旧制の教養主義のようなものを感じる文章が魅力でありましょう。
「 フィッシュ&チップスは、わたしにとって、高校時代からの馴染みの言葉だった
ので、一度たべてみたいと思っていた。念願がかなったとき、わたしは師恩に感謝し
た。高校といっても、旧制のはなしだが、英語の先生にドブネズミというニックネーム
をもっている教授がいた。異名はおそらく風貌からきているのだろうが、われわれの
先輩も、われわれ同様無知な高校生だったに違いない・・この小粒で、無精ヒゲを生や
している先生の特技は、イギリス人よりも(高校には常時イギリス人教師が抱えられて
いた)、イギリスの事情に詳しいことだった。
 ドブネズミは、イギリスへ行ったこともないのに、ロンドンのあらゆる街を知って
いるという噂が流れていたので、わたしなどは畏敬の念をもって、季節を問わず、着古
したダーク・グレイの一張羅を身につけている先生を眺めていたものだった。給料の
半分は丸善の支払いに当てられるという噂も耳にして、わたしはますます畏敬の念を
新たにした。
 フィッシュ&チップスの話を、先生がなんの関連において話されたのか憶えていない
が、魚はハドック(タラの一種)かブレイス(ヒラメの類)だという中味もそのとおり
だった。」
 ここに引用したのは、「イギリスの窓」というエッセイの終わりのほうであります。
書かれたのは60年代後半から70年にかけてのことのようです。三浦さんが旧制高校
ころにフィッシュ&チップスときいて、それがどのようなものか判然としなかったで
ありましょう。
 当方は、ちょうどイギリス発の音楽が世界を席巻していた頃に、そうしたグループ
のメンバーが好きな食べ物としてフィッシュ&チップスをあげていて、これはどのよ
うな食べ物かと思っていましたが、それを映像で見た時には、なんだと拍子ぬけしま
した。残念ながら、いまだにこれを食するにはいたっておりません。