年の初めの 8

 中井英夫さんの「虚無への供物」になると話がとまってしまいます。当方にとっての
十代の一冊でありますからね。1969年のことですから、高校を卒業して予備校に通って
いるときでありました。69年というのは、夏の高校野球三沢高校が決勝再試合で敗れ
た年でもありました。
 とにかくそれから40年もたって、ずいぶんと中井英夫さんをとりまく人物相関につい
ての情報が多くなっていることです。相澤啓三さんという方が、中井英夫さんの葬儀
委員長を勤めたなんてことも、今回はじめて知りました。
 相澤さんは、斎藤愼爾さんが中井英夫の文学的同志というくらいでありますから、
中井さんについての良き理解者でして、三一書房からでた最初の「中井英夫作品集」の
付録にも文章を寄せています。
 普通であれば、中井作品が最初に文庫化された時の解説者に起用されても不思議では
なかったでありましょう。この「永遠の文庫<解説>傑作選」に中井英夫さんの文庫が
二冊選ばれているのは、「虚無への供物」の出口さんの解説は、作品の重要性からいっ
て外せないが、「黒鳥譚・青髯公の城」は、相澤啓三さんによる力作ということもあっ
て、これは是非とも紹介しておきたいということでしょうか。
 そういえば、創元文庫版「中井英夫全集」の「虚無への供物」解説は相澤啓三さんで
あります。
 相澤さんの「黒鳥譚・青髯公の城」から、すこし引用です。
中井英夫氏の作品のうちにあって『黒鳥譚』はひとつの迷宮である。『黒鳥』の表象
はこの作品にはじまり、かくも長い不遇と黙殺の時代を通じて中井氏の作品世界に執拗
に現れる表象であった。」