本日の花

 花は新種が生まれるごとに名前がつけられるのでありますが、カタログを見てみます
と、花の名前には文学にちなんだものなどもけっこうありです。
 いま目にしていますのは、京成バラ園のカタログでありますが、これの最初のところに
は、今年から販売された「ノヴァーリス」という名の青いバラ系の品種が掲載されていま
す。カタログで、この花につけられているコメントは、次のようなものです。
「現在における青バラ系の品種で、最も丈夫で病気に強いバラがついに登場しました。
品種名は『青い花』の作者で、18世紀ドイツの詩人で小説家の名前です。
ブライトバイオレットの花は、中輪で花弁が多くよく咲きます。枝は堅く、しっかりした
株を作ります。黒星病やうどん粉病に特に強く、寒さにも強い品種です。
 ノヴァーリスは、小説『青い花』で、夢の中で見た青い花に憧れつつ旅する青年の成長
を描きました。このバラはそのようなノヴァーリスに神秘的な世界をあらわしていま
す。」
 この花については、今年5月西武球場であった国際バラ展で見ることができ、写真を紹
介したことがありますが、青といっても、ここにありますように「ブライトバイオレッ
ト」であります。( http://d.hatena.ne.jp/vzf12576/20120519 )
 青いバラというのは、「不可能と思われていた」ものであります。昭和三十年くらいに
青いバラが、ついにできそうだと喧伝されたとのことですが、青といっても紫系のものの
ようです。
 中井英夫さんは、「薔薇幻視」で青いバラについて書いています。
「色彩そのものがぜいたく品だったそのとき、カラーテレビという高値の花が、どれほど
の憧れをそそり立てたかを忘れてはならない。三十五年以降の高度成長、徒らな繁栄の
シンボルとして長く祀られてきたそれが、実際の家庭に納まるまでにはなおあと十年の
歳月を必要としたが、そのときもっとも手軽に、もっと高尚に、手近に夢を叶えてくれる
ものとして『青いバラ』は出現したのであった。
 それが最初から無気味な胎児のいろをしていたのは偶然ではない。青い花はついに『蒼
ざめた花』であり、ノバーリスの時代には、どうあろうとも、もはやそれは輝かしい未来
の幸福などを予感させ、保証してくれない。」
 引用した時に手にしていたのは、創元ライブラリー版の「中井英夫全集」の11巻であ
りますが、これの元版は1975年にでた「平凡社カラー新書」版でした。この新書を手に
した時、将来にバラを話題とすることになるとは思ってもいませんでした。