六枚のスケッチ 8

 本野亨一さんの「文学の経験 六枚のスケッチ」を話題としています。
これの「はじめに」を読むだけでも悪戦苦闘です。学生たちから突きつけた根源的
な問いかけに対して、考えるヒントを与えてくれた文学者六人をとりあげ、その
スケッチを発表しているのですが、この六人について、なじみがないのですから、
この本のページをめくること自体が、お勉強の様相を呈します。
 しかも、本野さんが話題としますのは、当方がもっとも不得意とする世界であり
ます。
「青年時代に感銘を受けた例えば作家について、その影響を語る人の、『私の歩んだ
道』ふうな、充実してなめらかな口調の懐旧談は、疑う余地のない影響の事実が述べ
られていて、懐旧談の、あいまいではない安定した構図が出来上がっています。
回想者はたんにそこに安住すればそれでよい、われわれは、そうした回想安住の図に
ありがたく頭を垂れるよりほかはないばあいを、たびたび経験させられます。」
 当方は「充実してなめらかな口調の懐旧談」というか、ゴシップがこのみであり
ますが、こうしたものは、どこまでいっても「文学の経験」とはなり得ないよう
です。