六枚のスケッチ 2

 「六枚のスケッチ」というのは、本野亨一さんの初めての著書「文学の経験」の
副題であります。

文学の経験―六枚のスケッチ (1974年)

文学の経験―六枚のスケッチ (1974年)

 このような著書があることは、今回、松田道雄さんの「幸運な医者」を手にする
までは知らなかったことであります。これの刊行は1974年1月とありますので、これ
は、当方が大学卒業間際のことでありました。たしか卒業論文というのを書かなく
てはいけなくて、やっとこさでっちあげたころでしょうか。
卒業論文を提出したら、本をたくさん買い込むぞと思っていたのですが、その候補
にこの本はなしでした。
 この本には帯がついていまして、それには次のようにあります。
カフカの名訳を世に問うた独文学者が、精神的伴侶としてのカフカを、そしてその
同質者と決めこんだ島尾敏雄をはじめとする人々に光をあて、言葉による表現のゆき
つく所、沈黙の場所を描く 深い思念の眼を凝らし、六枚のスケッチの背後に浮かび
上がってくる”なにものか”を静かな抑えた口調で語りかける書き下ろし長編評論」
 六枚のスケッチとは、以下の六人の文学者についてのものとなります。
 ・ 森有正
 ・ 小林秀雄
 ・ フランツ・カフカ
 ・ オイゲン・ヴィンクラー
 ・ 倉田百三
 ・ 島尾敏雄
 
 当方はほとんどなじんでいない作家等についての評論であります。74年当時は、
小林秀雄はたいへん影響力の強い評論家でありましたし、森有正はパリ在住の思想家
でありました。カフカから島尾敏雄へといたる道のりに、こうした文学者を配したの
でありますね。それにしても、倉田百三さんなどは旧制高校生に良く読まれたはずで
あるますが、いまは、あまり話題となることもなしですね。